3年おきに実施される調査「PISA」
日本の子どもたちの学力は、世界的にはどのレベルにあるのか——
国際的な学力比較の指標として参考にされているのが、OECDが実施している「PISA(ピサ)」と、「IEA」(国際教育到達度評価学会)が実施している「TIMSS(ティムズ)」(Trends in International Mathematics and Science Study)というふたつの調査です。
内容は、「TIMSS」が初等教育(小学校・中学校)で得た知識や技能の習得度を評価しているのに対し、「PISA」は義務教育終了段階(15才)で身につけた知識や技能が生活のさまざまな課題にどの程度活用できるかを評価しています。
今回は、2016年12月6日に、PISAの最新調査結果「PISA2015」(Programme for International Student Assessment、国際学習到達度調査)が公表されたので、その内容をダイジェスト版で紹介していきます。
PISAは、世界の15才を対象に、2000年以降3年ごとに科学・読解力・数学・共同作業による問題解決の能力をテストし、結果を公表しています。
PISA2015の調査対象は、72ヵ国・地域。テストは各国の言語で行われます。
成績のトップはダントツでシンガポール。「OECD」(Organisation for Economic Co-operation and Development、経済協力開発機構)加盟35ヵ国でもっとも成績がよかったのは、日本、エストニア、フィンランド、カナダという顔ぶれになりました。
世界で54万人、日本から6600人が参加
PISA2015では、72ヵ国・地域の生徒約54万人が参加し、日本からは全国の高校・中等教育校後期課程・高等専門学校1年生(約115万人)のうち、198校約6600人が参加(2015年6月〜7月に実施)。
日本の成績は、「科学的リテラシー」が538点で2位(OECD平均493点)、「読解力」が516点で8位(OECD平均493点)、「数学的リテラシー」が532点で6位(OECD平均490点)という結果に。
科学的リテラシーと数学的リテラシーは順位を上げましたが、読解力は4位(2012年)から8位に低下。
これは、今回から導入されたコンピュータでの調査に不慣れだったことも要因のようですが、今後は学習基盤となる言語能力・情報活用能力の育成が課題となりそうです。
成績トップはシンガポール
では、各分野のランキングをみていきましょう。
まずは、72ヵ国・地域におけるランキング(カッコ内は前回「PISA2012」調査結果)。
科学的リテラシー
- シンガポール…556(上海…580)
- 日本…538(香港…555)
- エストニア…534(シンガポール…551)
- 台湾…532(日本…547)
- フィンランド…531(フィンランド…545)
- マカオ…529(エストニア…541)
- カナダ…528(韓国…538)
- ベトナム…525(ベトナム…528)
- 香港…523(ポーランド…526)
- 北京・上海・江蘇・広東…518(カナダ…525)
読解力
- シンガポール…535(上海…570)
- 香港…527(香港…545)
- カナダ…527(シンガポール…542)
- フィンランド…526(日本…538)
- アイルランド…521(韓国…536)
- エストニア…519(フィンランド…524)
- 韓国…517(アイルランド…523)
- 日本…516(台湾…523)
- ノルウェー…513(カナダ…523)
- ニュージーランド…509(ポーランド…518)
数学的リテラシー
- シンガポール…564(上海…613)
- 香港…548(シンガポール…573)
- マカオ…544(香港…561)
- 台湾…542(台湾…560)
- 日本…532(韓国…554)
- 北京・上海・江蘇・広東…531
- 韓国…524(マカオ…538)
- スイス…521(日本…536)
- エストニア…520(リヒテンシュタイン…535)
- カナダ…516(スイス…531)
「OECD加盟国」(35ヵ国)でのランキングは、下記のような結果でした。
科学的リテラシー(OECD平均493)
- 日本…538
- エストニア…534
- フィンランド…531
- カナダ…528
- 韓国…516
- ニュージーランド…513
- スロベニア…513
- オーストラリア…510
- イギリス…509
- ドイツ…509
読解力(OECD平均493)
- カナダ…527
- フィンランド…526
- アイルランド…521
- エストニア…519
- 韓国…517
- 日本…516
- ノルウェー…513
- ニュージーランド…509
- ドイツ…509
- ポーランド…506
数学的リテラシー(OECD平均490)
- 日本…532
- 韓国…524
- スイス…521
- エストニア…520
- カナダ…516
- オランダ512
- デンマーク…511
- フィンランド…511
- スロベニア…510
- ベルギー507
2015年は科学的応用力にフォーカス
なお、PISAでは毎回中心分野について重点的に調査していますが、2015年は科学的リテラシーに焦点をあてています。
「現象を科学的に説明する・科学的探究を評価して計画する・データと証拠を科学的に解釈する」という3つの能力においても、日本はシンガポールにつぐ2位となっています。
現象を科学的に説明する
- シンガポール…553
- 日本…539
- 台湾…536
- フィンランド…534
- エストニア…533
科学的探究を評価して計画する
- シンガポール…560
- 日本…536
- エストニア…535
- カナダ…530
- フィンランド…529
データと証拠を科学的に解釈する
- シンガポール…556
- 日本…541
- エストニア…537
- 台湾…533
- マカオ…532
日本は好成績を収めるいっぽうで、「科学の楽しさ・理科学習に対する道具的な動機付け・理科学習者としての自己効力感・科学に関連する活動」という科学に対する4つの観点では、かなり特異な結果に。
下記は、科学的リテラシーにフォーカスした、2015年と2006年の「科学に対する態度」への調査結果を図形化して比較したもの。
OECD平均と比較すると、日本の子どもたちは、科学に対して楽しいと思うことや話題にすることも少なく、生活のなかで応用して考える意識も低いようです。
ただ、「自分の将来に科学の学習が役に立つ」と感じている生徒は、2015年にはOECD標準にぐっと近づいており、進路において重要であるという認識は高まっているよう。
また、日本で顕著なのは、科学的リテラシーの成績において男子が女子を平均で14点上回っており(OECD平均は4点)、女子よりも強い認識論的信念と強い自己効力感があると回答していること。いずれも肯定的な回答は男子が女子を上回り、もっとも大きな男女差を示す国のひとつとなっています。
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PISAはさまざまな側面から詳細に数値化した調査なので、じっくり読み込んでみるといろいろな発見があります。
興味のある人は、日本の調査結果については「国立教育政策研究所」サイト、各国についてはOECD公式サイト「PISA」をチェックしてみてくださいね。
試験内容も、「OECD」サイトで科学的リテラシーのテストを90の言語で公開していますよ!
【PISA2015】
- 調査元:OECD
- 公表:2016年12月6日
- 調査対象:72ヵ国・地域(約54万人、日本は198校約6600人)