シュタイナー教育ってなに?
「シュタイナー教育」(海外では「ウォルドルフ・エデュケーション Waldorf Education」と呼ばれる)は、20世紀初頭にオーストリアの哲学者であり人智学者のルドルフ・シュタイナー*によって提唱された教育メソッド。
* ルドルフ・シュタイナー Rudolf Steiner(1861~1925)は、 オ-ストリア生まれの哲学者、神秘思想家。20代のころよりゲーテ研究家、著作家兼講演家として活躍。自然科 学と精神科学を有機的に総合した「アントロポゾフィー」(人智学)の創始者。1919年ドイツのシュトゥットガルトに「自由ヴァルドルフ学校」(シュタイナー 学校)を創立。
シュタイナーの思想は、教育以外にも医療や農業、経済、建築、社会分野など多岐に渡って影響を及ぼしましたが、日本ではおもに幼児教育や治療教育でとりあげられることの多いメソッドです。
シュタイナー教育の理念は、「子どもたちを、肉体の面では健康で強壮な人間、心の面では自由な人間、精神の面では明晰な人間にすることがこの教育の目指すところである」というシュタイナー自身の言葉に集約されています。
具体的には、以下のような3つの特徴があります。
1)自由への教育
思想や理念は与えられるものではなく、自らの経験のなかで温められ、創りあげていくもの。そのため、シュタイナーの思想は子どもたちに直接伝えられることはなく、その世界観の環境を教師や保護者たち、学校全体で作り上げていく。
その環境のなかで物事を教えられて学ぶのではなく、自ら発見し、体験し、身体や心を動かし、感動や喜びのなかで学びをすすめていく。
一般的なテストや成績表は存在しない。生涯を通し何者にも支配されない、自らの力で考え感動し、意思と行動を結びつけ、自由に生きていくための力を育む。
2)芸術としての教育
「世界は美しいものだ」という考えを基礎とし、その美しさのなかで感動し、学んでいく。芸術科目に関わらずすべての科目が美しく色彩豊かでバランスに優れ、芸術的な時間になるよう取り組まれている。
3)7年周期
人間の成長は「7年ごとに人間は完成されていく」と、シュタイナーは説いている。
6才までは、何事も模倣する時期で肉体の基礎が育つ時期、小学校入学から中学校なかばの7才から14才は、個が芽生え、とくに感情面が育つ時期とされている。
その成長の段階を一貫して見守るため、シュタイナー学校では小中高一貫教育、なかでも1年生から8年生(中学2年生)までを同一のクラス、同一の担任で過ごすことを基本としている。
世界のシュタイナー教育
2012年現在、全世界には1000校を越えるシュタイナースクールが存在し、それぞれが連携をとりながらもその文化圏にふさわしいスタイルでシュタイナー教育が実践されています。
英語圏では公的な教育としてシュタイナー教育を選ぶことができる国もあり、欧米諸国では「Bund」(国際ヴァルドルフ学校連盟)が一種の認定機関として機能しています。
日本におけるシュタイナー教育
日本でシュタイナー教育が注目されたきっかけは、1970年代に出版された、教育学者・子安美知子さんによるドイツでのシュタイナー体験記「ミュンヘンの小学生」とされています。
21世紀に入ってからは、「クーヨン」などの自然派育児雑誌で特集が組まれたり、歌手・UAやモデルの日登美といった著名人がわが子への育児方針としてシュタイナー教育を取り入れたことから、ナチュラル指向のファミリーを中心に広く認知されるようになりました。
現在、日本には8つのシュタイナー学校があります。
- 学校法人「北海道シュタイナー学園いずみの学校」初等部・中等部
- 学校法人「藤野シュタイナー学園」初等部・中等部・高等部
- NPO法人「横浜シュタイナー学園」
- NPO法人「京田辺シュタイナー学校」
- NPO法人「シュタイナースクールいずみの学校」
- NPO法人「東京賢治シュタイナー学校」
- NPO法人「愛知シュタイナー学園」
- NPO法人「福岡シュタイナー学園」
文科省認定第1号となったのは、04年10月の「藤野シュタイナー学園」。小泉内閣の構造改革特区制度で藤野町(神奈川県相模原市)が教育芸術特区として認可されたことから、廃校の土地を取得するなどして学校法人化。
藤野を前例として、「北海道シュタイナー学園いずみの学校」も学校法人化への取り組みを行い認定されました。
シュタイナー教育の現在と未来
シュタイナー教育は、公的な教育や社会で求められる協調性や社会性という枠組みに収まりきらない要素もあることから、理解されにくい側面があったり、ときには批判されることもあります。
たとえば、シュタイナー教育ではテレビやパソコン、お金などは、社会のなかでの自分という存在を認識できる4、5年生以降に与えるべきだと指導されるため、自宅には基本的にテレビはありません。
また、心と身体の捉え方から低学年には推奨されないスポーツもあるため、低学年のうちは一般的な教育観との関わりで悩むケースも少なくありません。
また、理論を深く学ぶこともシュタイナーの特徴ですが、一般の学校とくらべるとこなす問題の数は圧倒的に少ないといえます。
試験や受験対策も行われないため、一般的な高校や大学を受験する場合は塾に通ったり家庭でのサポートが必要に。
シュタイナー学校後の進路は、海外の大学に進学したり、自分探しの旅に出たり、一般的な企業に就職をしている卒業生もいるなどさまざまです。
いずれにしても、男の子も編み物や細かい手仕事ができたり、自分の目的や技術をプレゼンしてお金に換えたりする術を身につけているなど、「食べていくための術」を備えていることが卒業生共通の特徴といえます。
日本のみならず海外でも生きていかれる「たくましさ」は、これからの時代をサバイブするために必須の要素。
そのかけがえのない資質を育むためにも、シュタイナー教育はわが子に与えるべき教育方針として検討する価値が十分にあるメソッドといえます。
文/HITOMI