英語教育国としての「韓国」
韓国は、「教育熱が高い国」として知られています。
なかでも語学教育への関心と情熱には並々ならぬものがあり、幼児期からの英語教育を中心に、大学進学や就職のための英語の資格取得まで、時間やおカネの投資を惜しみません。
英語習得のために、小中学生で海外留学をする「早期留学」も少なくなく、大学生における留学もさかん。
たとえば、世界大学ランキングでもトップ5に入る「ハーバード大学」では、中国につぐ47名もの韓国人留学生が学んでいるそう(12年)。
また、韓国を代表する企業「サムスン」が採用や昇進において、「TOEIC」900点台の取得を条件としたことは日本でも話題になりました。
英語熱が高まった背景とは?
かつては、TOEICの平均点も低く、英語教育への関心もそれほど高くなかった韓国。
そんな韓国が、現在のように英語を熱心に学び、英語力が飛躍的に伸びた背景にはなにがあったのでしょうか?
韓国で小学3年生から英語が必修化されたのは、97年のこと。
97年は「アジア金融危機」のまっただなかにあり、韓国の経済も大きく低迷しました。
失業率が上昇し、大学や大学院生の就職難が深刻化したため、国際社会で活躍できる人材育成するべく、早期からの英語教育が導入されることになりました。
その後の16年間で、ネイティブスピーカーの教師による会話授業を実施し、公立小学校に英語図書室を設けるなど、英教育語の充実を図ってきた韓国。
「TOEIC」の平均スコアでみてみると、1995年は日本が541点、韓国は457点。それが、11年に日本は574点、韓国は633点と逆転しているのだそう。
これは、早期英語教育を積み重ねた効果とみる研究者もいます。
「NEAT」導入が新機軸となるか
韓国人が英語力をつけた背景には、語学に対してとても積極的…という国民性も大きく影響していると思います。
韓国人は、発音や間違えを恐れたりせず、とにかく「まずは話してみる」という姿勢で英語に取り組みます。
また、韓国では国をあげて英語教育に取り組んでいますが、2012年から「ニート NEAT」(National English Ability Test)という新しい英語資格試験も導入しています。
NEATはスピーキングとリスニングに重点を置いたテストで、韓国人が英語の基礎力をつけるためのプログラム。
教材なども安価に提供するなど、より幅広い層で質の高い英語教育が受けられるしくみも整っています。
今後は大学入試やサムスンなどの就職試験においても、TOEICからNEATへとシフトしていく予定なので、今後の動向から目が離せません。
韓国の小学校での英語教育
日本の一歩先行く英語教育国、韓国。
今回は、子供の英語教育について紹介していきます。
韓国の小学校で英語教育が導入されたのは、1997年のこと。
韓国では小学校3年生から英語が必須科目で、定期考査もあります。現在では英語図書館を設けている学校も多く、校内の至る所でも英語のフレーズが書かれた掲示を多く目にします
当時の韓国はアジア金融危機の影響を受け、経済が大きく低迷。国家の危機とまでいわれました。
そうしたなか、企業がグローバルに活躍の場を広げるべく、海外でも即戦力となる人材育成のためにスタートしたのが、小学校での英語教育。
現在、小学校での英語の授業は3年生からスタートし、3年生では週2時間、6年生では週3時間行われています。
英語ネイティブの教師による実践的なスピーキングのほか、カンタンな文法や単語のつづり、物語のリーディングなど幅広く英語について学んでいます。
また、地域によって異なりますが、韓国では小学校から中間・期末の定期試験があり、3年生以上は主要科目のほか英語も加わります。
このため、試験の時期になると、書店には試験対策のための問題集が数多く並べられ、内容を吟味する親子でにぎわいます
英語塾も選択肢が豊富
学校の授業以外にも、「英語学院」(英語塾)に通う子供も多く、大手から個人レッスンまでさまざまな英語塾を選ぶことができます。
ほとんどの幼稚園で英語の歌や本を使用して英語の授業を行っていることから、幼稚園から英語スクールに通う子供もいますが、小学校に入学してから英語塾などで英語を学ぶのが一般的。
韓国では、習いごとに週3日~5日通う子供が大半ですが、たいていの英語塾も月~金まで週5日間、プログラムがみっちり組まれています。
英語塾の魅力は、ネイティブスピーカーによる授業や、アメリカやイギリスなどの小学校で使用されている教材を取り入れていること。
気になるコストは、大手英語塾「K語学院」の場合、小学生は週5日×1時間のコースで、教材費も含めて1ヵ月30万ウォン(約2万5000円)。高額な習いごとといえます。
放課後授業でも学べる
そのほかにも、ほとんどの小学校で実施されている「放課後授業」でも英語が学べる環境を提供しています。
「放課後授業」とは、放課後に外部から講師を呼び、英語や数学、科学などから、サッカー、バスケットボール、音楽や美術まで学べるもの。科目は、10~20くらいから選べます。
授業は1時間~1時間半程度で、受講は有料。塾やレッスンに通わせるよりも安価で、「学童保育」の役割も兼ねています。
「放課後授業」で英語を学ぶ場合、週3の授業だと教材費を含め月5万ウォン(4000円)程度。
スピーキングやリーディング、ライティングはもちろん、学校の試験対策もしてくれます。
「英語力」は学歴に必須
このように書くと、韓国がとにかく早期英語教育に投資していて、子どもたちの英語のレベルも高いのでは? と思われてしまうかも。
でも、学校の授業は英語のキホン的な内容が中心で、試験でも難解な問題は出ません。
小学生の段階では、海外に早期留学をしていたり、インターナショナルスクールの子供をのぞいては、大きな差はない印象を受けます。
それでも、英語は大学受験や就職には必須なのはもちろん、高校を選ぶ際にも英語の学力が重要なポイントに。
韓国では、語学や科学を専門的に学ぶ「特目校」(特別科目の略)と呼ばれる高校が人気で、とくに「外国語高校」はその代表格。
入試も英語の能力や資格が重視されるため、英語に特化した高校へ進学させたい家庭では早期から熱心に英語教育に取り組んでいます。
「早期留学」もさかんな韓国
このところ、日本でも注目されている「親子留学」。
夏休みなどを利用した短期的なものから、長期的に現地の学校やインターに滞在するものなど。
韓国では幼児期からの英語教育がさかんなため、低年齢、義務教育期間中に海外で学ぶ「早期留学」は以前から数多くありました。
韓国で海外旅行が自由化されたのは、1990年代はじめのこと。
その後、徐々に大学留学が増えはじめましたが、早期留学も小学校での英語教育がスタートしたのちの2000年以降に増えているようです。
母親が子どもに同行して現地に滞在したり、子供が単身ホームステイや寄宿舎に滞在するケースも。留学斡旋業者もたくさんあります。
このような海外滞在を韓国では「早期留学」と呼び、おもな留学先はアメリカやカナダ、ニュージーランドなど。
最近では、物価が安く英語も公用語として使われているフィリピンやマレーシアのインターナショナル・スクールも注目されています。
また、少数ではありますが、カナダやニュージーランドの永住権取得を目指し、親子で移住するケースもあります。
早期留学には問題点も
「早期留学」をする児童の平均留学期間は、2~3年なのだそう。
2011年に韓国の大手新聞社「朝鮮日報」が行った調査では、「早期留学」経験のある児童300名のうち、小学校低学年が46.1パーセント、50.3パーセントが高学年で帰国した…という結果が出ています。
こうした子供の多くが、帰国後は韓国の地元の学校に転入しますが、なかには学校生活になじめず、勉強についていけない子供も。
不登校になったり、ふたたび海外の学校へ戻るケースもあるそう。
そのため、国は「海外留学は中学卒業以上の学歴があると認定される者」と、義務教育中における「早期留学」を事実上禁止する法律を制定したり、各学校も「韓国の学校からの交換留学と両親の海外勤務等以外は、復学の際の進級を認めない」といったルールを設けています。
とはいえ、早期留学で子供を送り出す親の6割近くが規制について知らないという調査結果もあり、実際に処罰があった事例は耳にしないので効力のほどは不明ですが…
最近では長期的な留学ではなく、学校の休暇期間を利用した短期留学が増加傾向にあるようです。
また、「早期留学」を象徴するキーワードは、「キロギアッパ」(「キロギ」は「雁」、「アッパ」は「お父さん」)。
妻と子どもを「早期留学」へ送り出し、お父さんは韓国に残って学費や生活費を稼ぐべく懸命に働く姿が、「雁」のオスが家族を守るために献身的につくす姿に重なるのだとか。
子供の英語教育を最優先したために、家族は離散。孤独感や喪失感を募らせる父親もいて、自殺や孤独死といった悲劇も報道されています。
英語よりも大事な母国語
物事や言語に柔軟性や吸収性が高いとされる子供の時期に、海外でさまざまな経験をすることは人生のプラスになることも。
英語に強い高校や大学の帰国生枠などでの入試、海外の大学へ進学なども有利になるでしょう。
ただ「英語習得」を重視するあまり、「母国語」による思考力の確立をおろそかにすることは、子供にとって大きなデメリットに。
全体的な学力低下につながり、子どもの成長や将来に影響を与えてしまうリスクもあると、韓国政府は危惧しています。
子供には一生の宝となる「英語力」を与えてあげたいのが親心ですが、こうしたマイナス面も踏まえ「早期留学」を考える必要がありそうです。
帰国した子供たちのサポート
韓国でも、毎年留学を含め海外滞在を経て帰国するたくさんの子供たちがいます。
今回は、そのような経験をした子供たちが韓国ではどのようなサポートが受けられるかをレポートします。
日本人家庭の場合は、帰国後の学力の維持などを考慮してインターナショナルスクールよりも日本人学校を選択する傾向にありますが、韓国人家庭は対照的。
「海外に来たんだから、英語を習得しなくちゃもったいない」という考えで、インターナショナルスクールを選ぶケースが圧倒的。
こうした指向性からも、韓国人の「英語習得」への熱意が感じられると思います。
「帰国クラス」とは?
韓国の公立の小中学校では、「帰国クラス」という特別クラスを設けている学校があります。
「帰国クラス」とは、海外で生まれ育ったり、早期留学や親の海外転勤などで海外で生活し、帰国した子供たちの学校生活や学習面をサポートするクラス。
小学校ではソウルと釜山に各5校ずつ、中学校ではソウルに2校あります。
普段は、一般クラスに在籍しながら、日に1~3時間程度国語の時間などは「帰国クラス」に行き、担当の先生と韓国語を中心とした学習を少人数で行います。
ほかにも、英語力維持のためにネイティブスピーカーによる英語の特別授業、韓国の伝統や文化を知るための校外学習の実施などさまざまな工夫がされています。
帰国後は母国語の習得を
わが家は、3年間タイへの転勤で海外で過ごしましたが、5才になるまで韓国で生まれ育った長男は、幼稚園はインターナショナルスクール、小学校は日本人学校へ。
将来的に日本への転勤の可能性もあり、学校生活の様子が韓国と日本は似ているため、帰国後の学校生活への適応も考えたうえ、選択しました。
教育熱が高い韓国なので、帰国後も問題ないように週末は韓国語の補習校に通ったりもしました。
それでも、会話には不自由することがなくても、学校での学習面では読み書きが不足。
英語、韓国語、日本語の多言語環境が子どもに負担をかけてしまったことも痛感。帰国後の苦労は、予想以上のものでした。
「帰国クラス」に転入しましたが、同じように海外生活をした友達が多く、少人数で学習をサポートしてくれるスタイルが合ったようで、1年が経過した現在は楽しい学校生活を送っています。
子どもの言語の吸収力は早い反面、ひとつの言語を軸に思考できなければ、いずれの言語も中途半端になり、学力低下のリスクも。
母国語による思考力の基礎を固めることは、子供にはとっても大切。外国語の習得は、そのうえに成り立つものなのだぁと実感しています。