世界最強の「教育都市」上海
中国経済の中心地、上海。眩いネオンと光煌めく街、上海。
その上海の意外と知られていない顔、それは世界トップレベルの「教育都市」であるということです。
今回は、「経済協力開発機構」(OECD)が実施している国際学習到達度調査「PISA」(Programme for International Student Assessment)をもとに、上海の教育力を探っていこうと思います。
PISAは、65ヵ国(パートナーシップ加盟国含む)満15才51万人の生徒を対象に3年に1度行われている調査で、最新の結果は12年のもの。
日本は、「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」の全3科目で前回を上回りましたが、上海は近年フィンランドが席巻していた世界学力1位の座を、全科目で2位以下に大差をつけて独占。
09年に上海がOECD経済協力パートナーシップとして参加した際も、すべての科目で1位を記録。
他の中国の都市では、香港特別行政区が数学で3位、科学で2位と好成績を打ち出しています(12年度調査)。
※「PISA」では多くの国は参加生徒を無作為に抽出していますが、上海や香港は中国の一都市としての結果となります。富裕層が多く高度な教育が受けられる地域なので単純に他国と比較できないとの見解もあります。
上海の学力が伸びている理由
なぜ、上海がここまで子供たちの学力を伸ばし、維持しているのか。
上海など中国の大都市近郊にはエリート教育をおこなう「教育重点校」があり、授業時間も香港とともに世界でもっとも長い都市のひとつ。
また、すべての学校が「英才クラス」を設置しており、優秀な子供には差別化した教育課程を提供しています。
生徒に学校選択権を与えている地域が多いので、生徒や学校間の競争が激しく、小学校高学年から進学競争が展開されています。
さらに、上海を中心とする沿岸部の各都市では優秀な人材が教職に集まり、学校の競争力を高めています。教師の社会的地位も高く、その勤務評価体制も明白。
中国では大卒は超エリート街道を踏み出すための第一歩で、重要なのは名門大学への一歩を早い段階からスタートさせること(その初期にあたる15才前後において、PISAが行われているのです)。
文化大革命末期の1977年、「全国統一試験」が復活した時点での大学進学率はわずか1パーセント。近年でも正確な統計はないものの、人口比ではまだまだわずかです。
早い段階からよりよい大学に入学できる進学校を選ぶことが重要視され、成績もテストごとに順位表が張り出され、自分の位置を常に確認しながら学校を選定していきます。
競争心が学力と個性を伸ばすカギ
いっぽう日本では、ほとんどの国公立小学校で「絶対評価」を採択しています。他者との比較ではなく、個々の努力や頑張りを重んじるのが絶対評価。
体育の徒競走や水泳などでは力の差がはっきり見てとれるにも関わらず、他の科目などではその差(成績や評価)は見えにくいしくみとなっています。
これに対して、中学校以降多く採用されているのが「相対評価」。私は、せめて小学校高学年からは相対評価に移行すべきではないかと考えています。
「相対評価は学級内に問題や亀裂を生む可能性がある」という考え方もありますが、それらは学級担任が日々指導していくことのできる差異です。
子供の得意とする教科を正当に評価することは、真の意味で学力を伸ばし、個性を伸ばすことにつながります。
子供たちの競争心を欠くことは、将来「芯のある日本人」として国際競争社会で生きていくうえでプラスにはならない…と、PISAの結果や上海における教育現場を知るにつけ実感しています。
もちろん、上海にならって長時間授業を行い、成績を張り出すことがベストとはいえませんが、こういった教育環境が世界1位の学力をつくりあげているのも現実です。
かつて、ある議員が世界と闘っている日本企業に対して「2位じゃダメなんでしょうか」との発言もありましたが、目指すものがあるからこその目標。
いまこそ日本の現状に寄り添った学校教育を再考し、「教育先進国家」として世界と対峙できる新たな教育方針へと転換する時期にきているのではないでしょうか。
文と写真/中村祐哉(中国・上海市)