せかいのSENPAI図鑑 #04 | 三重・公立高からUWCオランダ校を経て、米国大学へ:IELTS7.5で切り拓いた“自分らしい進路”

三重県伊賀市の公立高校から、オランダの「UWCマーストリヒト校」へ。
そして、2024年秋からはアメリカ・フロリダ州にある「タンパ大学 University of Tampa」でアントレプレナーシップとミュージカルシアターを学ぶ、松塚さくらさん。

海外留学を決意したきっかけや、UWCでの学び、そしてIELTSで切り拓いた進路について、じっくり話を聞きました
海外進学を考えたきっかけ|自分を変えたいという想いが原動力に
松塚さんが海外進学に向けて動き出したのは、高校1年の休校期間(コロナ禍)がきっかけでした。
部活や勉強に追われる日々のなかで、ふと立ち止まり、「環境を変えたい」という思いがわいてきたといいます。



高校のダンス部は練習も通学もハードで、毎日疲れきっていて。自分を追い詰めてしまっている感じがありました。そんな生活が一度ストップしたことで、自分の高校生活を冷静に見つめ直せたんです


この「止まる時間」が、人生の選択を見直す大きな転機に。
もともと英語の先生に憧れ、海外への関心はあった松塚さん。中学時代に別の英語の先生から聞いた「UWC奨学生」の存在をふと思い出し、「受けてみよう」と心が決まりました。



英語の先生がすごく人間的な魅力のある方で、“こんなふうに世界を見てる人って素敵だな”って思って。その先生みたいに、私ももっと広い世界に出てみたいって感じていたんです
UWCという目指す目標ができたことで、気持ちが前向きに切り替わり、休校明けの学校生活も前より楽しめるように。


短かった日本の高校生活も、今では大切な思い出のひとつになっているといいます。
地元から世界へ|三重県初のUWC奨学生に
当時、三重県内でUWCの存在を知っている人はほとんどおらず、選考に関する情報も限られていました。
一次は学力テスト、二次は面接やグループディスカッションが中心。英語力は、英検2級を提出して臨みました。



合格してから知ったのですが、同じ高校から数人選ばれていた首都圏と違い、三重県からは私1人だけだったようです。本当にびっくりしました


UWC選考では2回の試験がある
UWCでは、一次と二次の2回の選考があり、一次は大阪会場で他の候補者と一緒に国語と数学の試験を受けました。
英語の学力試験はなく、事前に英語力を証明する結果を提出するだけでした。私は英検は準2級までしか持っていなかったので、高1の段階で英検2級を取得して提出しましたね。



二次のオンライン面接は、英語と日本語の個人面談、日本語グループディスカッションがあり、私の英語面接は笑いも交えた終始カジュアルな雰囲気でした
オランダ校を選んだ理由は?
留学先は、学校の得意分野や費用を考慮して、ランキング形式で希望を提出できます。
松塚さんは、ノルウェーを第1希望、オランダを第2希望として出願しました。



私が通ったオランダ校は、徒歩や自転車でどこでもアクセスできる立地にあり、私との相性は抜群だったと思います


UWCオランダ校での生活|言葉の壁を越えた、その先に見えた景色
2022年9月、オランダのUWCマーストリヒト校に入学した松塚さん。
世界中から生徒が集まる多国籍な環境で、すべて英語で学ぶIB(国際バカロレア)に挑戦する日々が始まりました。





英語は中学時代から意識して勉強していたけれど、やっぱり“生活の言語”として使うのは全然違って。授業でも日常会話でも、最初の数ヵ月は本当に何を言っているのか分かりませんでした
とくに、授業中に自分の意見を言うタイミングを逃してしまったり、伝えたい言葉がとっさに出てこなかったり…。
焦りや悔しさを感じることも多く、「授業を録音して後で聞き返す」「先生に個別で相談する」など、地道な努力を続けていたそうです。



悔しくて、泣きながら母に電話した日もありました。でも、いつも味方でいてくれて、“大丈夫、絶対乗り越えられる”って励ましてくれた母の存在が、本当に大きかったです
“わかる”実感が生まれたのは、冬休みの頃
語学力に光が見えてきたのは、入学から数ヶ月が経った冬休みの頃。英語が徐々に耳に入ってくるようになり、「言葉が意味を持って聞こえる」感覚を初めて味わったといいます。
それでも、心の中ではまだ葛藤も。



“外国語副作用”っていう現象があるんです。日本語だったら自然に浮かぶ考えが、英語だとスムーズに出てこない。そのせいで深い対話ができないもどかしさがあって、最初の1年は特につらかったです
自分の考えを“英語で伝える”ことがうまくいかないことで、友人関係にも影響が出てしまうのではと、不安を感じることもあったそう。
1年の終わりに見えた、自信と仲間
そんな時期を経て、1年目の終わりには徐々に状況が変わっていきました。言いたいことを英語で表現できるようになり、心から通じ合える友人たちとも出会うことができたのです。



あ、ちゃんと伝わってる”って思えた瞬間があって。そこから、英語でのやりとりが楽しいって思えるようになりました。そして今では、“親友”って呼べる人もいます
言葉の壁を乗り越えたその先には、単なる英語力以上の“人間関係の豊かさ”が待っていました。




最終学年前にIELTS7.5を取得|英語力の“証明”が進路の鍵に
UWCでの生活にも慣れ、いよいよ最終学年(G12)を迎えるという2023年8月。松塚さんは、IELTSで7.5という高スコアを取得しました。



進学を視野に入れて、いずれどこかのタイミングで英語力を証明しなきゃいけないとは思っていたんです。じゃあ今がその“タイミング”かもしれない、って
じつは、UWCでは英語の授業レベルに応じて「English A(母語レベル)」と「English B(第二言語)」に分かれており、English Bの履修者は、海外大学出願時に別途スコア提出が求められることも多いのだそうです。
IELTS or TOEFL? “自分に合った試験”を選ぶ
英語力を証明する試験として、多くの学生が迷う「IELTSかTOEFLか」という選択。松塚さんが選んだのは、スピーキングが対面式で行われるIELTSでした。



人と話すほうがやっぱり気持ちが乗るし、自分を出しやすいんですよね。TOEFLは“長文&総合問題”が多いという印象があって、苦手意識もあったので
IELTSの方が、「各技能(リスニング・リーディング・ライティング・スピーキング)がバラバラに測られる」点でも、自分の得意を活かせると感じたといいます。
対策のポイントは“出題形式に慣れること”
対策を始めた当初は、市販のIELTS問題集を1冊購入し、まずは「どんな試験なのか?」を把握。とくに苦手意識があったのが、グラフや図表を読み取って書くライティング Task 1。



正直、それ以外のパートは普段のUWCの授業で身についていた力である程度対応できたんです。だから、Task 1だけ重点的に練習して、あとは形式に慣れるように繰り返し演習しました
実力が“数字”になる感動|英語力が確かに育っていた



IELTSの問題を解いていて、“わからない単語があんまりない!”って気づいたとき、すごく嬉しかったです。単語帳も使ってないし、特別な塾にも通ってないけど、UWCでの生活がそのまま“英語力”になっていたんだなって
スコアで見る「7.5」という数字は、もちろん素晴らしい成果。でも、それ以上に「これまでやってきたことが確かにつながっていた」という実感が、松塚さんにとっては大きかったそうです。
進学先にアメリカを選んだ理由|まだ見ぬ自分に出会うための“自由な環境”
UWC卒業後、松塚さんが進学を決めたのは、アメリカ・フロリダ州にある「タンパ大学 University of Tampa」。
専攻はアントレプレナーシップ(起業)とミュージカルシアターというユニークな組み合わせです。


この進路の背景には、UWCでの2年間で出会った価値観の変化、そして“柔軟な選択肢”への憧れがありました。



ヨーロッパの大学って、やりたいことがしっかり定まってる人向けなんですよね。でも、私にはまだ“これ!”って決めきれていない部分もあって。だから、アメリカの“入ってから決められる”自由な仕組みが、自分には合ってると思いました
また、UWCと提携する大学がアメリカに多く、奨学金支援が受けやすいという現実的な側面も決め手のひとつに。
ミュージカルとの出会い|「やってみたい」が未来を動かす
もともとミュージカルに強い関心があったわけではなかったという松塚さん。しかし、UWCでの多彩な人々との出会いや、芸術を“ちゃんとした学問”として尊重する価値観に触れるうちに、自分の興味に素直になっていったといいます。



日本では“大学でミュージカルを学ぶ”って、ちょっと珍しいイメージがあるじゃないですか。でも、UWCではそれも立派な進路のひとつとして認められていた。“やってみたい”という気持ちを、ちゃんと形にしていいんだって思えるようになったんです
高校時代のダンス経験を活かし、Dance Directorとしてミュージカル公演を企画・演出したり、モロッコの子どもたちに演劇を教えるプロジェクトを主導したりと、学びと行動を結びつける挑戦を続けてきました。


留学で得た“学び以外の成長”|変化を恐れず、前に進める自分に



UWCに来る前は、正直すごく“真面目すぎる性格”だったと思います(笑)
松塚さんは、留学を通して“いい意味で大雑把に”なれたことを、ひとつの成長だと語ります。
プレッシャーや完璧主義にとらわれずに、ありのままの自分で物事に向き合えるようになった。そして、さまざまな国や文化の価値観に触れる中で、「どんな生き方もアリなんだ」と実感できたといいます。



自分でも“変わったな”って思うけど、友達からも“明るくなったよね”って言われます。何にでも挑戦してみたいって、心から思えるようになったんです
卒業旅行ではインドへ。いまだにUWC時代の友人たちとは毎月のようにビデオ通話をする仲だそうです。




編集部より
松塚さんのストーリーは、「最初から“正解”を知っている必要なんてない」と教えてくれます。
“やってみたい”を信じること、“環境を変える勇気”を持つこと。そのどれもが、新しい自分に出会うきっかけになる——そう思わせてくれる時間でした。
進路に迷ったら、相談もできます。
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ミュージカルシアターを学んでいます