清華大学 | MITを抜いた中国トップ大学
私は現在、中国首都・北京市にある「清華大学 Tsinghua University」の大学院で公共政策を学んでいます。
清華大学は1911年に創立した、14の学院と56の系を有する総合大学。各界に数多くの優れた人材を輩出しており、中国の現リーダー・習近平国家主席や胡錦濤元国家主席も清華出身です。
「QS世界大学ランキング2018」では中国1位、アジアでも名だたる大学を抑えて3位、世界では25位にランクイン(東京大学は28位)。
「中国のMIT」とも呼ばれており、工業研究分野ではすでにMITを抜いたとも言われています。
先日は、ソフトバンクの孫正義氏をはじめ、DELLやBMWのCEOが経済管理学院のアドバイザリーボードメンバーに就任するなど、経営者育成にも一層力が注がれています。
清華大学 | 日本人が中国トップ大に進学するには…?
私は、2000年に両親の仕事の都合で中国へ移住し、最初は中国のイギリス系インターナショナルスクールに通っていたことから、イギリスの大学に進学しようと決めていました。
しかし、中学3年次に大学進学を決める際、親から「経済成長が著しい中国で進学するほうが将来的にもメリットあるのでは」とアドバイスを受け、また当時は「北京オリンピック」が開催された時期ということもあり、「こんな活気のある国から離れたくない!」という強い思いもありました。
そこで中国進学に向け準備をはじめ、北京のローカル校へ転入しました。
中国の大学入試制度「高考」
中国の大学受験は、一般的に「高考制度」(普通高等学校招生全国统一考试。日本でいうセンター試験)を取っており、2017年の高考受験者数は約940万人。
そのなかで、清華大学や北京大学に入学できる学生は6000人ほどで、ほんのひと握りの学生しか入学できない狭き門。
また、私たち海外留学生には高考制度とは別に、「留学生高考」という大学ごとの入学試験があります。
清華大学では、文系であれば国語(現代漢語と古代漢語)、英語、小論文(中国語)、通識(歴史、地理、化学、物理、数学、社会などが混在する科目)、理系であれば数学、物理、化学、英語などの筆記試験があります。
清華大学に隣接する「北京大学」は、文理ともに国語、英語、数学といった基礎科目を受ける必要があり、その後学部ごとのグループ面接、個人面接が順にあります。
グローバル化が進み欧米式入試に移行
2016年までは、清華大学でも筆記試験ののちに面接が行われていましたが、国際化が進むにつれ、より多くの留学生してもらいたいという大学側の考えから、2017年度からは欧米系の大学と同様、書類審査からの面接が入試となり、より留学生が進学しやすい環境になってきています。
私は、2013年の4月に「留学生高考」の旧清華大学留学生統一試験を受け、同年5月に面接。
9月に晴れて清華大学法学院に入学。2015年9月に、同大経済管理学院工商管理学(経営学)のダブルディグリープログラムに入学、2017年7月に学部卒業。同年9月に、同大公共管理学院(公共政策大学院)に進学しました。
中国式受験塾で猛烈に勉強
学部入学する前の高校3年次には、北京にある「留学生高考」専門の学習塾に3ヵ月通いました。朝8時から夜の11時までみっちり勉強させられ、人生のなかであれほど勉強したのは初めてでした(笑)。
塾では「清華大学(文系)特進クラス」に入り、ほかには「北京大学特進クラス」、「人民大学特進クラス」など6つのクラスにわかれ、受講生はほぼ韓国人の学生。
ちなみに、2017年以前は韓国人学生が留学生のなかで一番多く、約60パーセントが韓国人学生でした。その後に各大学が留学生の割合を調整し、今では約25パーセントが韓国人学生です。日本人の学生は少なく、私を合わせてふたりだけでした。
大学院はいわゆるセンター試験がなく、書類審査からの面接。私が進学した公共管理学院の中国語プログラム(ほかにも英語プログラムがあり、中国語プログラムとは申請方法が異なる)は、個人陳述と推薦書、HSK(中国語検定)などが要求され、書類審査が通ったあとに面接を受けます。
ちなみに、清華大学に所属するには、学部入学のほかにも交換留学や大学院ダブルディグリーといった制度があり、約100人の日本人が清華大学で生活しています。
清華大学 | 清華大学を選ぶべき8つの理由
私が清華大学を選んだ理由には、8つの重要なポイントがあります。
①中国一起業が盛んな大学
2014年9月、天津市で開催された「ダボス・フォーラム」で、李克強首相が「大衆創業、万衆創新」(大衆による起業、民衆によるイノベーション)という概念を打ち出してから、中国国内で起業ブームが巻き起こり、清華大学はいち早く政策と共に、学生の起業文化を推し進めてきました。
いまでは「清華X-lab」を始め、「iCenter」、「創+」、清華大学グループに属するTus Holdings傘下の「TusStar」など、数多くの大学発のインキュベーターが常に学生の起業支援をしています。
清華大学主催の起業コンテストも年に数回あり、そこで勝ち進んだ学生は大学によってプロジェクトをインキュベートされ、起業に興味のある学生は最高のスタートダッシュを切ることができます。
私の周りにも在学中に起業した学生が多く、経済管理学院工商管理学(経営学)ダブルディグリープログラムのクラスメイトにも、起業から約3年で2000万元(3億4000万円)の融資を受けた学生や、中国の国家プロジェクトとして採用された起業チームもいて、まさにアメリカンドリームならぬチャイナドリーム(笑)。
私も学部在学中に起業を一度経験したものの、残念ながらX-labでは登録しなかったのですが、つぎのプロジェクトではインキュベートを受ける予定です!
②総合大学ながら理工系が突出
私は学部時代は法学・経営学を学び、大学院では公共政策を学んでいるのですが、日ごろから理工系学部の学生と交流する機会があり、文系学部ながら最新のテクノロジーに触れる機会が多々あります。
たとえば、私が住んでいる留学生寮では、留学生と中国人学生(選考に合格した優秀な中国人学生のみ)がペアで1部屋に住んでいます。
彼らの専門は、当然ながら人工知能、コンピュータサイエンスといったホットな学問にもまたがっていて、会話はとても新鮮で刺激的です。
キャンパスを歩いていても、ある研究室が製作した図書館間の本を運搬するための無人書籍運搬車や、ロボットなどを目にすることもひんぱんにあります。
自分の専門と違うにも関わらず、日常的に最先端の技術やそれを学ぶ学生に接していられるのはなかなか味わえない経験だと思います。
③キャンパスが世界レベルで素晴らしい
清華大学は清代皇帝の「御庭旧跡」に所在し、フォーブス誌の「世界で最も美しい大学キャンパスランキング」でアジアから唯一ランクイン。
フォーブスは清華大学を「散文のような美しさ」と称えており、近代的な建築と歴史的建築が融合するキャンパスは学生や観光客を魅了しています。
私が一番好きなスポットは、人文社科図書館と西門近くにある「近春園」。
人文社科図書館は世界的有名な建築家、マリオ・ボッタ氏によって設計され、清華大学でもダントツ人気な図書館です。
カフェや会議室なども図書館内に設置されていて、学生たちの憩いの場でもあります。期末試験が近づくと席がとても確保しにくく、朝早くから争奪戦が繰り広げられます。
④多様でグローバルな学生と過ごす生活環境
中国の大学と聞いた瞬間「留学生が少ないのでは?」というイメージを持つ人も多いのですが、大手投資ファンド運用会社「ブラックストーン・グループ」のスティーブン・シュワルツマン氏が私財を投じて設立した「シュワルツマン・カレッジ Schwarzman College」をはじめ、清華大学はとても国際色豊かな大学でもあります。
私が所属している公共管理学院も、じつに半分もの学生が留学生で、英語の講義も多々あります。
学内には各国の留学生会も点在し、以前私が所属していた日本人留学生会では、日本人新入生の生活面・学業面でのサポートや、大学主催の国際文化祭、New Year‘s Gala Nightなどといったイベントに日本人学生代表として参加しています。
⑤欧米系とくらべると学費は圧倒的に安い
清華大学は国立の大学であり、欧米系の大学にくらべると圧倒的に学費が安く、日本円に換算すると年間で約50万円くらい。
ほとんどすべての学生が大学の敷地内にある寮で生活していますが、寮費も1ヵ月約4万円、食事もすべて大学内の食堂(清華大学の敷地内には17個の食堂があります)で済ませられるため、ほとんど費用はかかりません。
それに加え、奨学金がとても豊富で、ほとんどの日本人学生が受給しています。うまく情報を集めて奨学金を選べば、生活にはほぼ困りません。
⑥世界の著名人との交流などチャンスも満載
習近平の母校だったり、シュワルツマン・カレッジが設立されたりと、世界の注目を浴びています。
それゆえに、各界の著名人が清華大学で講演やイベントを開催し、直接交流する機会が多々あります。
私は学部時代にPayPalの創業者であるピーター・ティール氏や、Facebookの創業者マーク・ザッカーバーグ氏、富士フィルム会長の古森重隆氏、自民党幹事長の二階俊博氏など数多くの著名人の講演に参加してきました。
清華大学、または中国では常にこのようなチャンスが訪れる機会があるので、その機会を逃さず、きっちり掴むことが大事だと思っています。
⑦学生団体の存在価値・待遇が超越している
学生団体と聞くと、大学のシステムとは別に立ち上げられた団体やサークルなどを連想する人が多いと思うのですが、中国の大学では学生会(学生会)が多々存在し、学生団体の範疇を超える活動を行なっています。
清華大学には、大学全体の学生会(学部生のみ)と院生会(院生のみ)があり、各学部にも学生会や院生会が点在しています。
学生会のおもな仕事は、学生の生活面や就活面のサポートのみならず、ときには大学の教育や設備の設立などにも関与していて、学生会なしには大学は機能しないレベルに達しています。
学生会が主催するイベントも、学生団体というレベルを超えており、大学のコンサート、タレントショー、野外音楽フェスティバルなど、メディアに報じられるほどの規模。
もちろん学生会以外にも、さまざまな大学所属学生団体があり、文化系団体からスポーツ系団体、国際系の団体など数多くあります。
私も公共管理学院の院生会に所属しており、副代表として日々活動しています。
学生会では、学生自身の主体性やマネジメント力を鍛えられ、名誉という付加価値も手に入れることができます。
清華大学学生会の主席は、中国国家公務員の副部級または正庁級の待遇を受けることができます(国家省庁の副部長級、副省級の市長は、たとえば南京市市長と同じ位)。
こういった学生活動(社会活動)はとても重視され、中国で進学・就職したり、アメリカの大学に進学する際に重要な指標とされます
⑧スポーツ好きにもたまらない大学
清華大学には「自強不息、厚徳載物」(自らを向上させることを怠らず、人徳を高く保ち物事を成し遂げる)という校訓以外にも、「無体育、不清華」(スポーツなしには清華を語れない)や「為祖国健康工作五十年」(祖国の為に50年健康的に働こう)などといったスローガンもあります。
これらのスローガンが表すように、清華大学はとくにスポーツを重視しており・40種ほどのスポーツの学部対抗戦が催されています。
学生のスポーツ意欲もとても高く、大学側もそういった環境が整っていて、私もほぼ毎日バスケットや他のスポーツを楽しんでいます。
また、大学側が主催するキャンパスマラソン、カラーラン、ナイトランなどといったイベントや、中国代表が自ら学生を指導するイベントなども用意されており、大学自体がスポーツ環境を推し進めてくれます。
私はこれから清華大学で学んだことを生かし、社会起業家を目指したいと思います。
幼少期から中国で育ち、貧富や、教育、地域格差などを目の当たりにし、社会の問題を根本的に解決するにはそこにエコシステムを作り上げるしかないと思いました。
ただ与えるだけでは社会問題の解決には繋がらない。
自分が社会起業家を目指し、社会問題の解決のために持続可能な事業を展開することでより多くの人を助け、社会にポジティブインパクトを与えたいと考えています。
夏目 英男(なつめ ひでお)
清華大学の日本人留学生3名による、日中架け橋プロジェクト「Dot STATION」主宰。清華大学公共管理学院(修士1年目)在籍。東京生まれ、北京育ち。幼少期に両親の仕事の都合上、中国へ移住。北京生活18年目に突入し、中国の友人からよく「北京訛りが激しい」と言われるほど生粋の北京っ子。清華大学法学院および経済管理学院(ダブルディグリー)卒。現在、清華大学公共管理学院にて社会起業、社会イノベーションやNPO研究をしている