「海外進学ラボ Weekly Picks」は、グローバル進学に関心のある中高生・保護者向けに、世界の教育ニュースを厳選してお届けしています。進路のヒントが“5分”で見つかる週刊特集です。
今週の海外進学ニュースは「教育と社会の接点」が色濃く出ました。
英国の研究では女子スポーツがキャリア形成に直結する効果が示され、オランダは高等教育予算削減で危機感を募らせています。
一方で、米国は学生満足度調査で首位を維持し、中国は大学専攻の承認を加速。さらにスコットランドでは、留学生を「呼ぶ」だけでなく「留める」戦略が動き出しました。
教育が個人・社会・経済をどう変えていくのか、多角的に考えるヒントが詰まっています。

本記事はポッドキャストでも配信しています
英国、放課後にスポーツをする女子がトップクラスの仕事に就く確率50%上昇
英国の調査機関Public Firstがまとめた報告書によると、放課後にスポーツに取り組む女子生徒は、人生において上級職に就く可能性が50%も高く、その影響力は大学の学位取得と同等レベルであることが明らかになりました。
また、同調査によると、スポーツをする女子は、困難な状況を克服する可能性や新しい挑戦に楽しみを見出す傾向が20~30%高まり、スポーツを通じて自信や適応力などリーダー適性が育まれる成果が示唆されています。
その一方、11才~18才の男子は週当たり1.4時間余分にスポーツに時間を費やしており、女子は男子ほど団体競技を選ぶ機会に恵まれず、個人種目を選択する傾向が高いことも明らかに。女性のスポーツ参加に対して、古くからの障壁が依然として解消しきれていない問題点が指摘されています。



女性参加率の低いスポーツで女子選手が台頭して活躍する恩恵は、競技内にとどまらず社会経済全体に波及することがうかがえます
出典リンク
- The Guardian | 50% off a monthly All-access digital subscription
- Sky Group | Sky calls for national action on girls’ sport to unlock £6.5 billion boost to UK as it teams up with Goals 4 Girls and Alessia Russo to increase participation
オランダの大学、予算の追加削減に強い反発、投資目標とのギャップも拡大
オランダの大学関係者は、現政権が最大2500万ユーロのインフレ補償削減を発表したことを受けて「オランダの高等教育分野に取り返しのつかない損害が生じうる」と強い難色を示しました。
オランダ大学の教育研究予算は、キャリア形成助成金や留学生支援を含め年間最大3億ユーロが削減されており、大学都市のリレーストライキや一部の大学では法的措置の動きに発展するほど批判の声は強まっています。
EUはGDP3%相当の研究・イノベーション分野への投資目標を掲げているものの、一連の予算削減の影響でオランダの投資規模は目標値には遠く及ばず2%に近付く見通し。Universities of the Netherlands (UNL)学長は、「オランダは、量子・半導体技術など世界を牽引する研究分野を抱えているが、公的投資が軽視される状況では成果を上げるのは不可能」と警告しています。



オランダは英語学位を予算的に縮小する方向にも進んでおり、特に蘭留学志望者とっては気がかりな変化が続いています
→ オランダ英語課程縮小へ | 海外進学ラボWeekly Picks
出典リンク
- The Times Higher Education | ‘Irreversible damage’ feared after further Dutch budget cuts
- The Times Higher Education | Reduced budget cuts still ‘disastrous’ for Dutch universities
10万人規模の学生満足度調査で米国がトップ、指標別では明暗も分かれる
グローバルな教育支援団体Studyportalsが実施した学生満足度調査「Global Student Satisfaction Awards 2025」によると、前回調査に引き続き米国が、同調査2位のベルギー、3位のオーストリアを抑え、もっとも総合満足度の高い留学先に選出されました。
10万人以上の大学生を対象とした本調査において、米国は指標別スコアでも他の主要留学先(英・豪・カナダ)を上回り、昨今のビザ取消・審査遅延等の負のイメージに反し、在学生の満足度は相対的に高水準にあることが示されました。
指標別では、もっとも急改善が見られたのが「キャリア開発」、とくに落ち込みが目立ったのが「学生の多様性」、「学生生活の質」となっています。また、他指標と比べて評価が伸びにくい「オンライン授業」満足度は、調査を重ねるごとに着実に改善しつつある状況も確認されました。



学生資格に関する逆境やインフレの影響を感じさせる結果が示された一方、教育の質や就労サポートなど大学側の主体的な取り組みは着実に学生側の実感につながっているようです
出典リンク
- THE PIE | US takes the lead on student satisfaction, survey finds
- Studyportals | Global Student Satisfaction Report shows rising career support but declining diversity and quality of life
中国、大学新規プログラム承認を簡素化、労働市場需要に機敏に応える体制整備
Central Education Work Leading Group(中国の教育部門の指導機関)は、大学が新規専攻を設置するまでに数年を要していた従来プロセスを省略し、早ければ同年度内に新入生受け入れが可能となる「学位承認のファストトラック」制度を導入しました。
この新ルールの対象となるのは、最先端テクノロジーなどSTEM分野が中心となるのも特徴。広島大学のFutao Huang教授は、「中国の大学が、労働市場や政策の優先順位の変化により機敏に対応できるようになり、AIや新エネルギー分野など新興産業との緊密な連携も実現するだろう」と評価。一方、新興分野、すなわち国際的にも競争が激しい分野への優先度が高まることで、海外の優秀な研究機関とのパートナーシップが推進される可能性があると同教授は予想しています。



最近は技術進歩のペースが余りにも速いため、国と教育研究機関が本格的に連携しようとした場合、今回の中国のようなルールが発案されるのは理にかなっている印象があります
出典リンク
- The Times Higher Education | China aims for ‘agile’ education with fast-track degree approvals
- VnExpress International | China fast-tracks university programs in tech and semiconductors
スコットランド教育大臣、留学生誘致に加え国内に留める環境整備に意欲
2025年欧州国際教育協会(EAIA)会議に参加したGraeme Deyスコットランド高等教育大臣は、留学生が自国にもたらす長期的価値に着目し、留学生を誘致するだけでなく国内に引き留める施策を充実させていく方針を強調しました。
スコットランドは、2024年に留学生多様化、地域コミュニティ活性化、研究投資計画などを柱に据えた自国初の国際教育戦略を発表。今後は、同戦略を踏まえ、地域コミュニティに留学生多様化の恩恵を継続的に波及させていく枠組みの実現が期待されています。
国内学生の大学授業料が無料のスコットランドでは、大学の運営面でも留学生への依存度が極めて高いのが実情。Dey高等教育大臣は、収入面以外に、留学生がコミュニティにもたらす豊かさ、すなわち国内に留まる価値の大きさを周知させていく必要があると回答しています。



国内学生とは対照的な授業料で学ぶ留学生は、留学先への愛着が強いケースも多いでしょう。そうした留学生が卒業後も滞在しやすい環境が整うは多方面にメリットがありそうですね
出典リンク
- THE PIE | “I want to be greedy” – Scotland’s higher ed minister on retaining international students
- THE PIE | Diversity, TNE and research investment at heart of new Scottish strategy
次回予告:
使い方によっては罰則対象にもなりうる生成AI。一方で、生成AIを全く使わないとういう学生も皆無に等しいでしょう。そうした状況下で、英国の大学生は生成AIをどのように活用し、どこまでを許容範囲と自己認識しているのか? 学生のAIとの向き合い方を掘り下げた興味深い調査結果を紹介します。
進学の「選び方」そのものが
静かに塗り替わりつつあります