「海外進学ラボ Weekly Picks」は、グローバル進学に関心のある中高生・保護者向けに、世界の教育ニュースを厳選してお届けしています。進路のヒントが“5分”で見つかる週刊特集です。
世界の留学市場で大きな変化が進んでいます。
米国では新規留学生が30〜40%減少する可能性が指摘され、経済的損失は70億ドル規模に及ぶ見込み。
中国人学生は米国から英国へシフトする動きが顕著で、日本も受け入れ拡大に向け規制を緩和中です。
一方、マレーシアやUAEといった新興留学先の存在感が急上昇し、とくに中国やインドの学生が主要なプレーヤーとして台頭しています。
従来の「ビッグ4」(米・英・豪・加)一強の構造に変化が訪れるなか、中高生とその保護者にとっても進路選びの選択肢は確実に広がりつつあります。

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留学生数の継続的な減少により、米国に70億ドルの経済的損失が波及する可能性
SEVIS(Student and Exchange Visitor Information System)や米国務省のデータに基づいた新調査によると、今秋の新規留学生の登録数は30~40%減少するおそれがあり、その影響により米国は70億ドルの経済的損失と6万人の雇用減少に直面する見通しが明らかになりました。
調査の実施団体「NAFSA」CEOのFanta Aw氏は、「7月~8月にかけて学生ビザ発給数の大幅な回復がなければ、今秋の新規留学生は最大15万人減少するだろう」と警告しています。
事実、連邦政府の厳格化した政策面の影響も含み2025年の学生ビザ発給数は各月12%~22%の減少を示し、ビザ面接の一時停止という混乱も加わり事態はより深刻化する可能性もはらんでいるようです。Aw氏は、「ビザ処理遅延は技術的な問題ではなく、人的・経済的に悪影響を及ぼす政策上の失態である」と批判しています。



学生ビザ面接もいまだ全面再開とは言えず、日本人申請者も含め予約しづらい状況下にあるようです
出典リンク
- THE PIE | US could face $7bn loss from international student decline
- THE PIE | US: Trump pauses new student visa interviews
直近1年で英国大学への中国人学生の出願が急増、米→英へ渡航先シフトの表れか
UCAS(Universities and Colleges Admissions Service)のデータによると、英国大学に出願する18才の中国人志願者数は、2025年度に18,830人を記録し、2024年から1年間で25%急増したことが明らかになりました。
これを受けて、Oxford International Education Groupの責任者は「英国高等教育ブランドの回復力を示す兆候」と歓迎。事実、ビザルートの厳格化傾向が続く状況にあって、志願者数が大幅な増加に転じるのは留学先ビッグ4(米・英・豪・加)のなかでも特異なケースといえます。
Venture Educationの創設者によると、「中国人家族は、米国と英国の大学を同列とみなしており、第二次トランプ政権下にある米国と対比した場合、英国大学を選ぶケースが増えるのは不思議ではない」と言及。また、今回の動向を「一時的な回復以上のもの」と捉える見方もあり、中国人学生の留学先が長期的に英国主体へシフトしていくのかも注目点です。



一方、インド人の英国大学志願者数は明確な減少を示しており、各国の大学には刻々と変化する世界情勢に応じた長期戦略が求められそうで
出典リンク
- The Times Higher Education | Chinese applicants ‘could increase further’ if UK shows stability
- The Times Higher Education | UK universities’ Chinese student recruitment ‘getting harder’
日本の国際化推進を見据え学生数の制限を緩和、長期目標の達成に近づくか
日本の文部科学省は、2025年7月25日より「大学・短期大学・高等専門学校の設置等に係る認可の基準の一部を改正する告示案」のパブリックコメントを実施し、入学定員の緩和を通じて各大学が優秀な外国人留学生を受け入れやすい環境づくりを進めています。
この特例措置は、外国人留学生受入れのための国際化体制が十分に整備されている大学・学部等に限られ、定員300名以上の大規模学部の場合は超過率105%から110%、定員100人以下の小規模学部の場合は超過率115%から120%へ緩和される具体案が記されています。
日本は岸田首相在任時に、2033年までに年間40万人の外国人留学生を受け入れ、年間50万人の日本人留学生を輩出する目標を設定しており、9月上旬に施行予定の本改正はその目標に近づく一助になりそうです。



グローバルな視点では、東アジアは留学生受け入れに積極的な地域と評価が固まりつつあり、日本の高等教育にも国際競争力を高める好機が訪れているかもしれません
出典リンク
- THE PIE | Japan’s internationalisation drive to relax student enrolment limits
- 文部科学省 | 「大学、短期大学および高等専門学校の設置等に係る認可の基準の一部を改正する」公示
需要の急増で留学生がマレーシアに集まる、とくに中国人志願者の高シェアが鮮明に
The PIE Live Asia Pacific 2025にて、マレーシア高等教育省傘下にあるEducation Malaysia Global ServicesのCEOは、過去2年間でマレーシアへの留学生志願者が26%の伸びを示す通り、自国が主要な留学目的地として広く認知されつつある状況を強調しました。
EMGSの2025年第2四半期(4月~6月)データによると、東アジア(12,469人)と南アジア(8,046人)からの出願が上位を占めており、国別では中国人志願者(10,947人)が圧倒的なシェアを占めることが読み取れます。また、中国とは大きな開きがあるものの、東アジア圏では日本人志願者数(1,049人)が第2位である点も注目です。
さらに、マレーシアの大学関係者は、現状あまり留学生を呼び込めていないインドの高等教育需要にも着目し、潜在性の高いマーケットと関わりを強めていく意向を示しています。



昨今では、留学費用の高騰やビザ厳格化などの事情もあり、中国人留学生が米国等の主要留学先を避ける傾向にありますが、マレーシアはその有力な代替オプションとして強い関心が寄せられているといえるでしょう
出典リンク
- THE PIE | International students flock to Malaysia as demand surges
- Education Malaysia Global Services(EMGS)| Statistics on International Student Applications for Malaysia’s Tertiary Education
国際的な留学関心が90%上昇したUAEがMENAの急成長を牽引
教育用検索プラットフォームを提供するKeystoneのデータによると、世界的な留学ニーズの変化を裏付けるかのように、2025年6月時点のUAEへの検索関心が前年比90%近くも増加したことが明らかになりました。
UAEは、近年のMENA(中東と北アフリカ)留学人気を牽引する存在となっており、南アジア、東南アジア、東アジア、ヨーロッパなど多方面の需要に加えて米国からの関心も高まりつつあるようです。
特にUAE最大の留学生コミュニティを形成するインドについて、教育コンサルタントFateh EducationのCEOは「ビッグ4(米・英・豪・加)の代替留学先を積極的に模索する中で、ドバイがその有力候補に浮上している」と言及。さらに、ドバイの地理的利便性、文化面の親しみやすさ、安全性や医療の質など、インド人家族にとって理想的なバランスが成り立つ点を指摘しています。



留学新興国マレーシアにインドからの留学が少ない点が気掛かりでしたが、UAEの現況を踏まえると世界各地で留学生の獲得競争が起きているといえそうです
出典リンク
- THE PIE | UAE leads MENA surge as international study interest soars by 90%
- The Times of India | Want to study in UAE? What Indian and international students need to know
次回予告:
「人の悩みをAIに打ち明ける。」一見、現実味の薄い表現に思えるかもしれませんが、海外では生徒の相談先としてAIチャットが成果を示しつつあるようです。
進学の「選び方」そのものが
静かに塗り替わりつつあります