「海外進学ラボ Weekly Picks」は、グローバル進学に関心のある中高生・保護者向けに、世界の教育ニュースを厳選してお届けしています。進路のヒントが“5分”で見つかる週刊特集です。
今週の海外進学Picksは、「教育と移民の再構築」をキーワードに、世界の動きを追いました。
英国では早期出願が過去最高を記録し、国際的な進学意欲の高まりを反映。一方カナダでは留学生受け入れを大幅に制限し、持続可能な移民政策とのせめぎ合いが続いています。
米国ではOPT留学生への課税法案や、中国の大学拡大がもたらす修士課程の変化が議論を呼び、フィンランドでは自然と触れ合う教育が子どもの免疫や幸福に好影響を与えることが確認されました。
進路の選択肢を「社会の動き」から読み解くヒントが詰まった号です。
英国大学への早期出願数が過去最高レベルを記録、留学生は高比率30%を占める
英国大学出願のための共通プラットフォーム「UCAS」が発表したデータによると、2026年度入学の早期出願者(10月15日締切分)は昨年度より7.4%増加に相当する7万9160人を記録したことがわかりました。
これは、早期出願者数のピーク2022年度(7万7810人)をも上回る過去最高の記録です。また、英国以外の出願者数2万4350人が全体の約3割(前年比11.5%増)を占めており、10月時点の出願数増加の主要因であることも読み取れます。
国別では、中国からの出願者数が昨年比15.8%の伸びを記録し、他国を大きく引き離して英国留学市場の最大シェアをキープ。同市場シェア2位と3位の米国とシンガポールもそれぞれ15%以上の伸び率を示しました。
副編集長 城現状、コストや制度改革の面で英国留学にポジティブ要素のみが揃うわけではないですが、他の国や地域との比較を経て英国の大学が優先的に選ばれていると推察されます
- 政策の不確実性が留学生の進路選択行動の重大な懸念点に浮上、各国に問われる情報発信の質
- 教育の質にこだわり、フレキシブルな学習を許容する最新の留学生像が判明
- 直近1年で英国大学への中国人学生の出願が急増、米→英へ渡航先シフトの表れか
出典リンク
- The Times Higher Education | More overseas students propel early applications to record levels
- UCAS | 2026 cycle applicant figures – 15 October deadline
フィンランド教育、自然に囲まれて学ぶ保育環境が子どもの健康面にも好影響
フィンランド都市部の10の保育園に通う3才~5才児75名を対象に実施された調査によると、周辺をアスファルトや砂利で囲まれた通常の保育園で過ごす幼児と、「再野生化」された自然豊かな保育園で過ごす幼児では、免疫システムの発達に明確な違いが生じることが明らかになりました。
具体的には、緑に囲まれた保育園で遊んで学ぶ子どもたちの方が、皮膚に病原菌が少なく、免疫の重要な役割を担う血液中T細胞も増加していることが判明。科学界の有力な仮説、「アレルギー疾患の増加は、幼少期において自然界の微生物に接する機会が少ないことに起因する」を支持する結果が得られた点も注目に値します。
フィンランド政府は、保育園を緑豊かな環境に改装する助成金を提供しており、今後ますます屋外メインの保育園や託児所の整備が進むと考えられます。



多様な微生物との関わりによって真の健康が成り立つという視点が、知恵と健康を育む幼児教育の実現に役立ちそうです
出典リンク
- The Guardian | How a radical experiment to bring a forest into a preschool transformed children’s health
- BIWE (Biodiversity Interventions for Well‑being) | Nationwide Research on the Rewilding of Kindergarten Yards (Vahvistu)
2025年上半期カナダへの新規留学生数が60%減少、一連の移民制度改革を強く反映
カナダ政府が公開した8月末日時点の最新データによると、2025年1月~8月間に入国した新規留学生は、2024年同時期と比べて約60%減少していることがわかりました。この受け入れペースは、国が設ける就学許可証の年間上限を大幅に下回ると見られています。
カナダ政府は、住宅·インフラ·サービスの不足を緩和し、一時滞在者を含む国内居住者に適切な雇用機会を提供する「持続可能な移民制度改革」の成果を強調。実際、現カーニー政権は2027年までに一時滞在者を5%に抑えることを目標に据え、就学許可上限の下方修正や留学生に対する経済的要件を引き上げるなどの施策を講じてきました。
政府公認移民コンサルタントのMcDonald氏は「今回の政府発表は、留学生急減についての懸念が共有されていない」と国際教育業界との現状認識のギャップを問題視しています。



一連の制度変更によって、老舗語学学校の閉鎖などカナダの国際教育市場は逆境に直面しているようです
出典リンク
- THE PIE | Canada’s study permits down 60% amid immigration overhaul
- カナダ政府 | Understanding student and temporary worker numbers in Canada
米国上院議員がOPT留学生への免税措置を廃止する法案を提出、二極化思考への懸念も
Tom Cotton米国上院議員は9月末日、オプティカル·プラクティカル·トレーニング(OPT)を利用して働く留学生に対する免税措置の廃止を求める法案を提出。本来、この免税措置は、留学生が米国の社会保障制度の対象外となる点を加味して採用された背景があるようです。
仮に同法案が実現した場合、留学生とその雇用主の双方に対して約8%の追加課税が発生。留学生の手取りが減少するだけでなく、企業が留学生を雇うことによる採用コストの優位性も失われる見通しです。
こうした動きについてボストン大学のChris Glass教授は、「OPTは特定地域のエントリーレベル職の競争率を押し上げつつも、STEM分野に波及的な雇用創出をもたらしている」としてOPTの廃止や制限が国内労働者にとって良いこと尽くしではない実情を指摘しています。



OPT制度変更が実現しないとしても、一連の不確実性の高まりが留学生の進路選択に影響を及ぼすことが想定されます
- 米学生ビザ(F-1)からH-1Bへの移行ケース、新手数料10万ドルの免除が明らかに
- 米国上院議員、実質的なOPT廃止を政府に要請、米国留学の価値を高める制度に動揺
- 米国修士号に対する世界的需要が検索行動ベースで約60%減少、重大な政策変更への反動か
出典リンク
- THE PIE | US eyes ending OPT tax break for international students
- アメリカ合衆国連邦議会 Library of Congress | S.2940 – OPT Fair Tax Act
米専門家分析、中国の大学数増加の波及効果が米国修士課程の長期的成長要因に
研究者約2000名が集う非営利団体National Bureau of Economic Researchのメンバーがまとめた新研究によると、米国修士課程の成長の約15%相当は、ここ数十年で中国の高等教育が拡大し続けた波及効果に起因している可能性が示されました。
本調査は、中国の大学卒業生が100名増えるごとに、平均3.6人の中国人学生が米国の大学院に進んだ実態や、特にSTEM分野において集中的な恩恵が生じていたことを明かしています。
また、共同研究者の1人は、中国人留学生の存在が、他国や国内の学生に向けた補助金を実質的に支えていたこと、地域雇用を促進する需要拡大を担っていたことなど多方面への波及効果に着目。今後、中国人留学生数が減少する場合「その影響は、短期的な授業料収入の減少というかたちですぐに表れる」と指摘しています。



相互に支え合う関係性が揺らぐことで、多方面に負の影響が及ぶリスクも考慮する必要があります
出典リンク
- The Times Higher Education | Chinese student influx ‘grew US master’s courses by 15 per cent
- National Bureau of Economic Research(NBER) | The Ripple Effects of China’s College Expansion on American Universities
次回予告:
留学選択肢の増加、コストへのシビアな価値観なども影響し、英国の大学にとっても留学生ニーズの把握は重要事項です。
そうしたなか、学生の母国でのキャリア形成を支援しようとする英国大学の動向に注目が集まっています。







進学の「選び方」そのものが
静かに塗り替わりつつあります