「海外進学ラボ Weekly Picks」は、グローバル進学に関心のある中高生・保護者向けに、世界の教育ニュースを厳選してお届けしています。進路のヒントが“5分”で見つかる週刊特集です。
今週の5本を並べると、世界の大学が置かれている状況が“ひとつの問題”ではなく、複数の変化が重なり合う局面に来ていることが浮かび上がります。
イングランドの留学生課税や語学学位の縮小は、財政と需要の揺らぎが制度そのものに影響を及ぼしている例。一方で、ASUロンドン校の開設は、国境を超えた学位設計という新しい選択肢の登場を象徴しています。
さらに、北米での留学生減少を背景に、アジア・欧州へと流れが移りつつあり、2035年にはインド・中国・インドネシアが世界の主要市場となると予測されています。
政策、財政、人口、学びのデザイン──それぞれ異なる軸の変化が、同時多発的に進んでいる。そんな“世界の進路地図”を読み解くヒントが詰まった一週間でした。
イングランドの大学、2028年より留学生1人£925の定額課税を計画、大学関係者からの批判強まる
英国政府は、2028年より留学生1人当たり£925の課税を導入する計画をまとめ、現在は2026年2月18日まで続く公開協議のフェーズに入っています。
課税対象となるのは、Office for Students(OFS)の管理下にある教育機関、すなわちイングランドの全大学。また、留学生220名までは実質的に課税が免除されることになり、小規模大学に対して一定の救済措置が設けられたとも捉えられます。
この新課税による税収は、主に恵まれない英国人学生の生活費補助金に割り当てられる予定。ただし、Universities UKのMalcolm Press会長は「新たな課税措置が引き起こす留学生の減少は、大学を更なる経営難に追い込み、ひいては国内学生の定員が削減される事態を招くおそれがある」と懸念を表明しています。
副編集長 城グローバルな高等教育市場が縮小すると、ゆくゆくは全方面にデメリットが波及するというのは無視できない視点ですね
出典リンク
- The Times Higher Education | International student levy set at £925 per student from 2028
- THE PIA | England’s international fee levy under fire after details revealed
- イギリス政府教育省 | Consultation on the International Student Levy
英国名門大学、需要減や財政難により語学学位を廃止の方針、語学軽視への反発も
英国の24の研究大学の総称「ラッセルグループ」の一角、ノッティンガム大学は財政難や需要減少を背景に、現代外国語(Modern Language)や音楽など複数の学位課程の受け入れを停止する方針を発表。
該当コースを履修済みの場合は修了まで継続しますが、新入生や基礎課程の学生が選択可能なコースからは除外されるようです。
特に、ラッセルグループの構成大学から語学学位が消滅する事態は各方面に波紋を広げており、University and College Union支部長のLeach氏は、資金難や需要による影響を一部認めつつも「大学指導者のイデオロギーの変化に依るところが大きい」と主張。
活気ある学術・文化機関であるべき大学が、ニーズの変化という一時的要因に左右される状況を批判的に捉える見方も根強いようです。



歴史・文化を内包して積み上げてきた価値と時代の要請に見合う価値、社会環境の変化が速まる現代において大学は難しい舵取りを求められています
出典リンク
- The Guardian | University of Nottingham considers axing language and music degrees
- Nottingham Post | University of Nottingham to suspend 16 courses – including nursing – as financial struggle continues
新設のアリゾナ州立大学ロンドン校、英国学士号と米国の短期修士号を取得可能な4年制課程を提供
米国に本部を置くアリゾナ州立大学(ASU)は、学士号と短期修士号をダブル取得可能な4年制プログラム(英国3年間+米国1年間)を取り入れた「ASUロンドン校」を新設します。
ASUは、米国大手雑誌による大学ランキングのイノベーション部門で10年連続全米トップを維持するなど、高等教育へのアクセス拡大に貢献し続けている注目の大学。学長のCrow氏は、「世界有数の大都市をベースに、英国の高等教育の質と米国の応用学習の革新性を融合した学習モデル」と評しています。
似た事例として、日本では東大が、学士・修士の5年制課程「カレッジ・オブ・デザイン」の2027年開設をリリース済み。今後は国内外で、既存の年数にとらわれない高等教育過程の導入がトレンド化する可能性もあります。



トータル4年では内容を圧縮せざるを得ない一面もあり、特に1年間の短期修士号という価値がどのような評価に落ち着くのか興味深いです
出典リンク
- THE PIE | Arizona State University launches ASU London
- THE PIE | “We will admit every qualified student”: ASU’s bold commitment to access
2025~2026年度留学生の入学状況、カナダ・米国は大幅減少も欧州やアジアの大学の需要拡大見込み
国際的な教育支援団体Studyportalsが、63ヵ国461の大学を対象に実施した調査によると、2025~2026年度留学生について北米圏は大幅な減少に直面しているのに対して、欧州やアジアの主要地域は留学生の増加傾向に転じていることがわかりました。
同調査では、カナダの大学の82%、米国の大学の48%が留学生数の減少を報告しており、特にカナダを避けがちな留学生の選択行動が浮き彫りになっています。
その一方、アジア圏の36%、欧州圏の43%が本年度の留学生数は増加していると回答。
studyportals創設者のRest氏は、部分的に市場が収縮しても、他の留学先候補が台頭して学生を引き寄せていることから「高等教育はより相対化しつつも、一貫して国際的であり続けている」と前向きな見解を明かしています。



カナダは、留学生受け入れ上限の下方修正、残高証明額の引き上げなど、政策動向も留学生の意思決定を左右したと考えられます
出典リンク
- THE PIE | Enrolments drop in North America as students look to Asia and Europe
- Studyportals | The Global Enrolment Benchmark Survey (Aug-Oct 2025 intake)
10年後の大学市場予測、インドネシアの大学生数が世界3位に到達し印中2大市場は盤石
Times Higher Educationのデータ部門(dataHE)がまとめたレポートによると、10年後の2035年にはインドネシアの大学生数が米国とブラジルを抜き、世界第3位の高等教育市場(1310万人)を形成する展望が明らかになりました。
また、大学生数1位インドと2位中国は、10年後も変わらず3位以下を大きく引き離す規模感を維持することも確定的に。
世界全体の大学生数は今後10年で20%以上の増加が見込まれるものの、特に南アジアや東アジアでは伸び率30%以上の明確な成長曲線が描かれるようです。
また、こうした上昇トレンドにもかかわらず、北米圏は約50万人減というほぼ横ばいの推定値を記録。
dataHEはレポート内で「高等教育需要の段階的な変化と、教育機関同士のグローバル競争の激化が表れている」と分析しています。



仮に、北米で制度面の劇的な変化が起きた場合、今回の予測に影響が波及するのかどうかも気になります
出典リンク
- The Times Higher Education | Indonesia to become ‘third largest sector by 2035’
- Times Higher Education | Towards 2035: Projecting the Future of Global Higher Education (PDF report)
- 中国、大学新規プログラム承認を簡素化、労働市場需要に機敏に応える体制整備
- 需要の急増で留学生がマレーシアに集まる、とくに中国人志願者の高シェアが鮮明に(8/23号)
- 欧州マルタの大学留学生が前年比25%超の急増、安価な学費など複数の好条件も誘因(11/29号)
次回予告:
留学選択肢の増加、コストへのシビアな価値観なども影響し、英国の大学にとっても留学生ニーズの把握は重要事項です。
そうしたなか、学生の母国でのキャリア形成を支援しようとする英国大学の動向に注目が集まっています。







いま、進路をめぐる“前提”そのものが
少しずつ形を変え始めています