「海外進学ラボ Weekly Picks」は、グローバル進学に関心のある中高生・保護者向けに、世界の教育ニュースを厳選してお届けしています。進路のヒントが“5分”で見つかる週刊特集です。
今週も、国際教育をめぐる「移動・選択・価値観」の変化が表面化しました。米国では渡航禁止令の拡大により、留学生の進路が国籍によって左右される現実が再び浮上。一方、英国は2027年からエラスムス・プラスに再加盟し、欧州との学生交流を本格的に再始動します。
カナダは約2000億円規模の研究者誘致計画を発表し、世界的な人材獲得競争は新局面へ。英国大学では化石燃料産業との採用関係を断つ動きが広がり、大学の社会的スタンスが進路選択に影響し始めています。さらにスリランカでは、海外大学の分校設立が進み、「越境しない国際教育」という新しい選択肢も現れています。
米トランプ政権、渡航禁止令対象を約40ヵ国に拡大、8番目の留学生供給国も含む異例措置
米トランプ政権は、2025年12月16日付けでアフリカ諸国を中心に入国禁止対象を拡大し、約40ヵ国の国民が部分的または全面的に米国入国が制限される方針が定まりました。
この禁止令は、既存のビザ保有者は免除されるものの、新規学生ビザによる入国が制限されることから米国留学を目指す対象国学生にとっては、進路変更を余儀なくされる重大な決定といえます。さらに、今回の追加発表で注目を集めているのは、米国で8番目に多く留学生を供給しているナイジェリアが制限対象に含まれたことです。
国際教育交流団体「NAFSA」は、「審査の強化に頼らず、渡航禁止という画一的な防壁を築くことは米国の国際社会からの後退を意味する」と強い懸念を表明。また、連邦政府が判断基準に用いるデータの信頼性を疑問視する声も寄せられています。
副編集長 城当初、影響は限定的という側面もありましたが、留学生シェア上位の国が制限されたことで誰しも当事者になり得る事態として捉え直す必要がありそうです
出典リンク
- THE PIE | Trump adds 20 countries to US travel ban
- THE PIE | US set to expand travel ban to over 30 countries
- 2025~2026年度留学生の入学状況、カナダ・米国は大幅減少も欧州やアジアの大学の需要拡大見込み(12/6号)
- 前年度米国の留学生数が過去最高110万人超え、OPT参加学生の大幅増加が牽引(11/29号)
英国がエラスムス・プラスに2027年初頭より再加盟、国際教育の流動性向上に強い期待
英国政府は、EUが提供する大規模国際交流プログラム「エラスムス・プラス」に2027年より再加盟することを正式発表しました。
今回の復帰により、英国の学生は大学間交換留学や職業訓練実習など欧州における幅広い教育文化交流に参加する機会に恵まれ、同プログラムを利用することで留学先でもローカル学生と同額の授業料で最大1年間学べるようになります。
2020年のエラスムス・プラス離脱時には、主に費用対効果に不満を表明していた英国政府。再加入交渉では、貿易協力協定に基づく拠出額から30%を割り引いた約5億7000ポンドの負担で合意に至りました。
今回の決定には英国の大学関係者からも歓迎の声が相次いでおり、政府の説明によると初年度だけで英国人10万人以上が本制度の恩恵を受ける可能性があるそうです。



近い将来、エラスムス・プラスを通じてチャンスを得た日本人と英国人の留学生がEUのどこかで出会える日もやってくるでしょう
出典リンク
- THE PIE | UK to rejoin Erasmus+ scheme from 2027
- THE Higher Education | UK set to rejoin EU’s Erasmus+ student exchange scheme
- イギリス政府公式サイト(GOV.UK)| Young people from all backgrounds to get opportunity to study abroad as UK-EU deal unlocks Erasmus+
カナダ、世界最大級2000億円規模の国際研究者誘致計画、人材採用競争はグローバル化の様相
2025年12月上旬、カナダ政府は国家の研究開発ベースの成長を促進する国際人材誘致戦略の詳細を発表。
総額17億カナダドル(約2000億円)を投じて12年間で1000名以上の国際的な研究者および大学院生を誘致する行動計画が明かされ、世界最大級の採用プログラムとして学術研究関係者の間でもイノベーション推進への期待が高まっています。
2025年はトランプ政権下で米国の研究予算が大幅に削られ、研究者の米国離れが近年にはない規模感で加速。これを機に世界的な人材採用競争が本格化し、英国の公的資金ベースのGlobal Talent Fund(110億円規模)、選定大学の若手研究者誘致を助成する日本のExpert-J(33億円規模)などカナダに数ヵ月先行して研究者誘致戦略を定めた国も少なくありません。



中国が10月より導入したKビザ(若手研究者の就労要件優遇)も、米国の頭脳を引き付ける促進要因になると考えられます
出典リンク
- Times Higher Education | Canada announces details of C$1.7 billion talent scheme
- Times Higher Education | Talent race ‘wide open’, say US researchers heading to UK
化石燃料産業と採用関係を断つ英国大学が増加、大学特有のアプローチで産業シフトに関与
英国大学の環境保護および倫理的パフォーマンスを評価するpeople & planetの最新ランキングによると、新たに8つの大学が化石燃料産業との採用関係を終了したことがわかりました。
これにより英国では合計18の高等教育機関が、化石燃料企業の求人広告掲載や採用フェアへの参加を拒否していることになります。
同ランキングの共同ディレクターは、「1年間で記録的な数の大学が、気候変動を煽る業界に学生を送り込まないと新たに表明した」と直近の動向を高評価。
大学別では、マンチェスター・メトロポリタン大学が環境や社会正義に関する全項目で高評価を収めて4年連続のトップ。一方、1stクラス(147校中25位以内)の評価を得たラッセルグループ大学は3校のみにとどまりました。



大学側が特定の業界と採用関係を断つのは、日本ではほぼ見聞しない試みですが、同調する大学が増えるほど社会経済全体への影響力を発揮しそうです
出典リンク
- The Guardian | Eight more UK universities cut recruitment ties with fossil fuel industry
- People & Planet | How sustainable is your university?
大学の定員不足深刻なスリランカ、約3年でオーストラリアの3大学が海外分校を新設
オーストラリアのチャールズスタート大学は、スリランカ内第3番目の豪州大学として2026年半ばを目処に第一期生を迎える方針を固めています。当初は、現地で技能育成の優先度が高いビジネスと幼児教育のコースを開講し、その他の学術分野も段階的に始動する予定です。
同国では99%の中等教育就学率に対して、毎年約16万人の大学進学希望者の4分の3が入学を逃す状況にあり、国内20の公立大学では高等教育需要をカバーしきれないことが問題視されています。
既に6万人のスリランカ人学生が海外教育機関によるTNEプログラムに参加していますが、11億ドル規模とされる潜在性の高い教育マーケットは、グローバルな学術研究のつながりを志向する豪州の大学にとっても魅力的といえるでしょう。



一個人の留学に伴うコストや諸要件を踏まえると、海外大学がローカルコミュニティで国際教育を展開する取り組みは、より幅広い対象に前向きな選択肢をもたらすはずです
出典リンク
- The PIE | Third Australian university to open in Sri Lanka amid rising demand
- British Council | Growth of Sri Lanka’s private higher education sector
次回予告:
留学選択肢の増加、コストへのシビアな価値観なども影響し、英国の大学にとっても留学生ニーズの把握は重要事項です。
そうしたなか、学生の母国でのキャリア形成を支援しようとする英国大学の動向に注目が集まっています。














いま、進路をめぐる“前提”そのものが
少しずつ形を変え始めています