2025年は、海外進学を考えるご家庭にとって、正直とても判断が難しい一年でした。
「制度が変わったらしい」「ビザが厳しくなったと聞いた」「この国は大丈夫なの?」——そんな断片的な情報が次々と流れ、全体像が見えにくくなったと感じた方も多いのではないでしょうか。
実際、2025年は主要留学国の政策が大きく動き、留学生数や進学先の人気にもはっきりとした変化が表れた年でした。
一方で、従来とは異なる地域が新たな選択肢として存在感を高めるなど、これまでとは違う流れも生まれています。
副編集長 城この記事では、海外進学Picksで紹介してきた情報をもとに、2025年の世界の進学トレンドを「政策」「数字」「進学先の移動」という視点から整理しました
個別のニュースを追うだけでは見えにくかった全体像を知ることで、国際教育のなかで日本が置かれている位置や、今後考えるべき視点が、少しクリアになるはずです。
第1章:2025年は「政策が大きく動いた年」だった
2025年の進学トレンドが、かつてなく揺れ動いた最大の要因は、各国の政策が大きく変化したことにあります。
この章では、主要留学先である米国・英国・カナダ・オーストラリア、いわゆる「ビッグ4」について、特に留学生受け入れの厳格化につながった政策の動きを整理します。
米国の方向転換
第二次トランプ政権が始動した米国は、年間を通じて留学生の進路選択に大きな影響を及ぼすニュースの発信源であり続けました。
まず注目を集めたのが、F-1学生ビザの有効期間を原則4年間に厳格化するという、米国土安全保障省による規制案です。
現行制度では、入学許可証(I-20)に定められた在籍期間が優先されるため、学位プログラムを修了するまで継続滞在が可能となっています。
しかし、新たな規制案が適用された場合、プログラムの途中であっても4年を区切りとしてビザ延長申請が必要となります。この変更により、留学生にとっては時間面・コスト面の両方で追加的な負担が生じることが懸念されました。
続いて、オプショナル・プラクティカル・トレーニング(OPT)を巡る動きも、留学生や志望者にとって大きな不安材料となりました。
OPT学生に対する現行の免税措置を取り消す案や、OPT制度そのものの廃止を求める動きが上院議員レベルで報じられたことで、米国留学後のキャリア設計に対する不透明感が一気に高まりました。
こうした変更が実現した場合、米国留学市場は中長期的な低迷に陥る可能性も指摘されています。
また、一時的に留学業界を震撼させたのが、H-1Bビザの申請料を10万ドルに引き上げるというニュースです。
最終的には、米国移民局の発表により、OPTを含むF-1ビザからの切り替えは対象外であることが明らかになりました。
👉 米国のF-1ビザやOPTに関する最新の議論は、こちらのPicksでまとめています



ただし、詳細が判明する前に衝撃的な情報だけが先行した点は、現政権の不透明な政策運営を象徴する出来事として記憶されるでしょう
英国の揺れ動き
英国では、国際教育の需要を中長期的に左右する制度変更を巡り、活発な議論が続きました。
留学生に対する年間925ポンドの新課税や、Graduate Visaの有効期間短縮といった施策が相次いで発表されています。
2028年に導入予定の新課税は、経営に苦しむ大学や留学生比率の高い大学にとって、特に大きな負担となる変更です。
👉 英国が2028年に導入予定の新課税については、こちらのPicksでまとめています
Graduate Visaは、学位取得後に最長2年間の就職活動・就労を認める制度ですが、2027年1月以降の申請では有効期間が18ヵ月に短縮されます。なお、博士号取得者については、従来どおり3年間が維持されます。
👉 英国のGraduate Visaについては、こちらのPicksでまとめています
さらに、2026年からは、特定の就労ビザ取得に必要な英語力基準がCEFR B1からB2へ引き上げられる予定です。
👉 英国、特定の就労ビザ取得に必要な英語力基準がCEFR B1からB2へ



この基準については、「ネイティブスピーカーでも不合格があり得る水準」として、公平性を疑問視する声も上がっています
カナダの大転換
カナダでは、長期化するインフレや住宅不足といった国内事情が、2025年の制度変更に大きな影響を及ぼしました。
政府は「持続可能な移民計画」を掲げ、2026年から2028年にかけて、留学生の受け入れ目安を年間約15万人に設定しています。これは、2025年比でおよそ50%減にあたります。
学生ビザの承認率は2024年から低下傾向にあり、2025年9月からは、学生ビザ申請に必要な生活費証明額も引き上げられました。



こうした流れは語学教育業界にも波及し、老舗校を含む語学スクールの大量閉鎖という深刻な事態を引き起こしています
オーストラリアの調整
オーストラリアでは、2025年7月より学生ビザ申請手数料が2,000豪ドルに引き上げられました。
2024年前半の710豪ドルと比較すると、約3倍という急激な値上げであり、業界全体から見直しを求める声も上がっています。
👉 豪の主要教育団体、政府にビザ申請料の緊急引き下げを要請、留学期間による不公平性を指摘
一方で、国家計画レベルでは、2026年以降に留学生受け入れを再び拡大する方針も示されています。
今後、具体的な政策設計によってどこまで実効性を持たせられるかが注目点となります。
👉 豪政府、2026年の留学生受け入れ目標を29.5万人まで拡大する国家計画を発表
第2章:数字に表れた留学生・出願動向の変化
2025年に入り、各国の留学生数や出願動向には、制度面の不安定さを反映した変化がはっきりと表れました。
米国:留学生数は過去最高、しかし新規ビザは減少
まず米国では、OPT申請者の増加に支えられ、2024〜2025年度の留学生数が過去最高を記録しました。
一方で、F-1学生ビザの発給数は、2025年前半時点で前年比およそ20%減少しています。大学検索プラットフォームのデータによれば、米国修士課程への需要は前年比60%もの下落を記録しました。
👉 米国修士号に対する世界的需要が検索行動ベースで約60%減少、重大な政策変更への反動か
カナダ:制度改革の影響で新規留学生が急減
隣国カナダでは、「持続可能な移民制度改革」の影響を受け、2025年8月時点で新規留学生数が前年比60%減少しています。
👉 2025年上半期カナダへの新規留学生数が60%減少、一連の移民制度改革を強く反映
英国:逆風の中でも堅調な出願動向
英国も制度的不安定性の渦中にありますが、留学生による早期出願数は前年比11.5%増加しました。
とくに、英国留学市場で最大のシェアを占める中国からの出願は15%以上増加しており、逆風の中でも需要の底堅さがうかがえます。
👉 英国大学への早期出願数が過去最高レベルを記録、留学生は高比率30%を占める
アジア・中東地域:新たな受け皿として存在感を強める
また、2025年はアジア地域の台頭を印象づける年でもありました。
マレーシアで学ぶ留学生数は、直近2年間で約26%増加。香港は、非ローカル学生の受け入れ上限を、わずか2年足らずで20%から50%へ引き上げると発表しています。
中東・北アフリカ地域では、UAEが注目を集めました。教育プラットフォーム上の検索需要は、前年比90%もの上昇を示しています。
👉 2025~2026年度留学生の入学状況、カナダ・米国は大幅減少も欧州やアジアの大学の需要拡大見込み
日本人留学生:アジアを中心に回復が進行
日本人留学生数も回復基調にあり、全体ではコロナ禍前の約90%水準まで戻っています。
とくに、マレーシアやシンガポールなどアジア諸国に限れば、すでにコロナ前の水準を上回っています。
第3章:人気国の大移動──「ビッグ4からの分散」
ビッグ4における移民政策の厳格化や不確定要素の増大と同時に、アジアや欧州の一部地域では、留学生誘致を積極的に進める動きが見られました。
その結果、従来の主要留学先から需要が分散する現象が、2025年の大きな特徴として浮かび上がっています。
米国:学生ビザ減少が示す「留学生離れ」
特に米国では、2025年の各月における学生ビザ発給数が、前年と比べて10〜20%ずつ減少しました。
さらに、2025年1月以降、学生ビザを8,000件以上取り消したことも、第二次トランプ政権の厳格な姿勢を象徴する動きといえるでしょう。
こうした状況が、留学生離れを加速させた一因となったことは否定できません。
英国:中国人志願者の急増という対照的な動き
その一方で、英国では特徴的な動きが見られました。2025年には、18歳の中国人志願者による英国大学への出願が前年比25%も急増しています。
米国の社会・政治情勢を不安視した中国人家庭が、優先的な留学先を英国へとシフトさせた可能性があると、専門家は分析しています。
アジア・中東:留学需要の新たな受け皿へ
また、シンガポール、香港、マレーシア、UAEといった国・地域も、前年と比べて注目度を大きく高めました。
留学需要の新たな受け皿として、その存在感を強めています。
👉 国際的な留学関心が90%上昇したUAEがMENAの急成長を牽引
日本人留学生:渡航先トップの入れ替わり
日本人留学生の動向にも変化が見られました。2024年のデータではありますが、渡航先として長年トップだった米国は約2,000人減少し、代わってオーストラリアが人気1位の座に浮上しています。
第4章:英語試験制度の変化
英語試験制度においても、2025年は大きな転換点となる出来事が相次ぎました。
TOEFL iBT:問題形式の大改革と評価方法の刷新
二大英語試験の一つであるTOEFL iBTは、2026年1月から問題形式を大幅に刷新すると発表しています。
受験者の回答に応じて出題内容が変化するAdaptive方式を採用することで、実力をより正確に測定できるようになると期待されています。
また、IELTSと同様のバンド形式スコアを新たに導入し、1〜6段階表示へと変更されます。これにより、CEFR準拠のレベル分けと直接対応できる点も注目されています。
👉 2026年1月21日よりTOEFL iBTが大幅アップデート、問題形式のほかスコア表示変更も
Duolingo English Test(DET):日本市場への本格展開
英語試験の新興勢力として存在感を高めているDuolingo English Test(DET)も動きを加速させました。AIを活用したスピーキングテストを導入し、受験者とのより柔軟な対話を実現しています。
さらに、秋にはパートナー校への無償試験提供を含む先行導入プログラムを開始し、日本市場での本格展開を進めました。
👉 2026年1月21日よりTOEFL iBTが大幅アップデート、問題形式のほかスコア表示変更も
IELTS:信頼性を巡る課題が浮上
一方、世界トップシェアを誇るIELTSについては、やや懸念の残る話題も浮上しています。2025年9月までの約2年間にわたり、技術的なトラブルによるスコア計算ミスが発生していたことが明らかになりました。
影響を受けた受験者の割合は1%未満とされ、対象者にはすでに通知が行われています。しかし、受験者の将来を左右する資格試験であるからこそ、制度の完全性や信頼性が改めて問われる出来事となりました。
👉 IELTS、試験結果の一部に技術トラブルによるスコア間違い発覚、修正スコアの提供と再受験の機会も
第5章:留学生動向がもたらす経済的インパクト
教育は個人の進路選択にとどまらず、国レベルで見れば大きな経済効果を持つ産業分野でもあります。
2025年は、留学生数の増減が各国経済に与える影響について、議論が活発化した年でもありました。
米国:大学財政と地域経済への影響
米国では、留学生に対する厳しい施策が続くなか、格付け機関ムーディーズが警鐘を鳴らしています。留学生比率が20%を超える大学について、信用リスクが顕在化する可能性があると指摘しました。
さらに、新規留学生が継続的に減少した場合、約70億円規模の経済損失が生じるとの見通しも、国際的な非営利団体の調査によって示されています。
👉 留学生数の継続的な減少により、米国に70億ドルの経済的損失が波及する可能性
英国:留学生が支える「輸出産業」としての高等教育
英国でも、留学生と経済効果の関係を分析する調査が相次ぎました。超党派グループによる最新レポートでは、留学生による経済活動が、英国全体で年間419億ポンドもの経済効果を生み出していると報告されています。
また、高等教育セクターは、英国内100の選挙区においてトップ3の輸出産業として機能しているとされ、留学生の存在が地域経済に与える影響の大きさが改めて浮き彫りになりました。
👉 英国超党派団体、留学生がもたらす多大な地域経済効果を最新調査で強調
オランダ:留学生制限がもたらす経済的影響
英語による学位コース削減が話題となったオランダでは、政府主導で留学生数に画一的な制限が設けられました。
その結果、労働市場や景気に影響が波及し、GDPが40〜50億ユーロ減少するとの予測も示されています。
👉 オランダ、大学留学生制限が50億ユーロの経済損失につながる可能性、画一的政策を防ぐ代替案の存在も
オーストラリア:永住を見据えた留学生と労働市場
オーストラリアでは、政府系諮問機関の最新調査により、留学生の約40%が10年以内に永住権を取得している実態が明らかになりました。
従来の推定値との乖離が大きかったこともあり、今後は最新データを踏まえた雇用環境整備への期待が高まっています。
👉 豪雇用問題の諮問機関、留学生在留率を過小評価と指摘、雇用実態も表面化
第6章:2025年を象徴するキーワード
最後に、2025年の国際教育動向を端的に表すキーワードを整理します。本文全体を振り返る意味でも、ここで改めて確認しておきましょう。
「政策不確実性」
2025年は、各国で移民政策に紐づく大幅な制度変更が相次ぎました。その結果、「政策不確実性」が進路選択における重大なリスクとして、広く認識されるようになった年でもあります。
特に米国の動向を振り返ると、政治的な決定一つで、留学生を取り巻く状況が大きく変動し得ることを実感した方も多いはずです。
同時に、制度面が比較的安定しているアジア圏などへの関心が高まり、留学先の分散化が進んだとも言えるでしょう。
「コスト意識」
世界的なインフレは、生活費だけでなく、大学の授業料やビザ申請料にも大きな影響を及ぼしています。
こうした状況のなかで、留学生家族のコスト意識は、かつてないほど高まりました。それが、新興留学先の台頭を後押しする一因になっていると考えられます。
また、従来のように留学生を待つだけでなく、教育機関自らが海外分校として現地に進出し、より低コストで国際教育を提供しようとする動きも活発化しています。
👉 大学の定員不足深刻なスリランカ、約3年でオーストラリアの3大学が海外分校を新設
「量より質への転換」
例えば、ビッグ4の一角であるカナダでは、留学生受け入れの「量」を重視してきた結果、住宅不足や雇用のミスマッチといった社会問題が深刻化しました。
こうした状況を受け、同国はより「質」を重視した留学生受け入れ方針へと舵を切っています。
ただし、その影響として、就学許可件数の減少や申請要件の厳格化が進み、短期的には留学生側の負担が増大している点も見逃せません。
👉 教育の質にこだわり、フレキシブルな学習を許容する最新の留学生像が判明
「非伝統的留学先の台頭」
諸条件が悪化したビッグ4と折り合いがつかない留学需要を引き寄せたのが、東南アジアやMENA(中東・北アフリカ)地域に代表される「非伝統的留学先」でした。
例えば、マレーシアは多くの中国人留学生を、UAEは多くのインド人留学生を受け入れています。高等教育需要の大きい国からの留学生を着実に取り込みながら、中長期的な成長を描こうとする動きが見られます。
また、ビッグ4を単なる競合と捉えるのではなく、運営やノウハウ面で協力関係を築き、ローカル教育市場に新たな価値を生み出そうとする試みも進んでいます。















“確かな窓”でありたい