📌 この記事の位置づけ
この特集は、Weekly Picksで2025年に取り上げた世界の教育ニュースを再構成したものです。
✅ じっくり読んで全体像を掴みたい方 → この記事を最後まで読む
✅ すぐに実践したい方 → AI時代の学びと教育・完全ガイド|家庭でできること・考えるべきことを総まとめへ
2025年は、生成AIの急速な進歩によって、私たちが当たり前だと思ってきた「学び」や「教育」の前提が、大きく揺さぶられた年だったと言えるかもしれません。
「学校の授業は、このままでいいのか」
「テストの点数は、これからも本当に実力を測れるのか」
「大学に行く意味や、留学の価値はどう変わっていくのか」
こうした問いは、もはや一部の専門家だけのものではなく、子どもを育てるすべての家庭にとって、無視できないテーマになりつつあります。
この特集では、海外進学Picksで取り上げてきた数々のトピックの中から、「AI時代の学び」を考えるうえで特に重要な動きを、ひとつの流れとして整理しました。
- AIを前提に再設計され始めた教室の姿
- 大きく変わろうとしている試験・評価制度
- 「速く学ぶ」ことに疑問を投げかけるスローペース学習の考え方
- スマホやAIに囲まれた環境をどう設計するかという問題
- そして、大学・留学・学歴の意味そのものの変化
これらは一見バラバラの話題に見えますが、実はすべて「これから、子どもたちはどう学び、どう成長していくのか」という一つの問いにつながっています。
本特集は、特定の学校や進路を勧めるためのものではありません。また、「AIはこう使うべきだ」という正解を押し付けるものでもありません。
むしろ、これからの時代に、どんな力を大切にし、どんな環境を選ぶのか。その判断材料を、保護者の方と一緒に整理するための「思考の地図」をつくることを目的としています。
海外進学ラボ変化のスピードが速い時代だからこそ、「何が変わり、何が変わらないのか」を一度立ち止まって見渡すことが、
きっとこれからの進路選択や子育ての軸をつくる助けになるはずです
第1章|「先生が教えない学校」が問いかけるもの
―― AI時代、教師の役割と「学ぶ力」はどう変わるのか?
「先生が教えない学校」と聞いて、あなたはどう感じるでしょうか。不安になりますか? それとも、少しワクワクしますか?
2025年、アメリカをはじめとする海外の教育現場では、これまでの「学校の当たり前」を根本から問い直す動きが静かに、しかし確実に広がっています。その象徴的な例が、AIを前提に設計された新しいタイプの学校の登場です。
ここでは、実際に起きている3つの事例から、「AI時代の教室はどこへ向かっているのか」を一緒に考えてみましょう。
事例①|Alpha School(米国サンフランシスコ)
教科担任がいない学校
アメリカのK-8私立校「Alpha School」は、サンフランシスコの新キャンパスで、教科担任を置かないという、かなり挑戦的な教育モデルを採用しています。
👉 1日2時間授業、学科教員不在のAI学習私立スクールに脚光、専門家からは慎重論も
生徒たちが毎日受ける通常授業は、それぞれの習熟度に合わせて最適化された 1日2時間のAI学習のみ。
残りの時間は、
- ライフスキル
- チームワーク
- プロジェクト型の活動
などに使われています。
つまり、「知識のインプット」はAIが担い、人間の大人は「学びの伴走者」や「場のデザイン」に回る、という構造です。
この仕組みに対しては、もちろん賛否があります。「直接指導を手放すのはリスクが大きい」という専門家の声もありますし、すべての子どもに合うモデルではないことも確かでしょう。
ただ一方で、もともと能動的に学べる姿勢を持っている子どもにとっては、AIによる個別最適化学習は、むしろ学びのスピードと自由度を大きく広げる可能性もあります。
ここで、ひとつ大事な問いが浮かびます。
そもそも「教師の役割」とは何なのでしょうか?
知識を「教える」ことだけであれば、AIの性能は今後ますます向上していきます。しかし生成AIの専門家は、こんな指摘もしています。
「生徒は、どうAIを使えばいいのかを導いてくれる存在を必要としている」
つまり、これからの教師は「教える人」から「学びを設計し、方向づけるファシリテーター」へ役割がシフトしていくのかもしれません。
事例②|英国の学生のAI利用実態調査
便利さと不安が同時に広がっている
オックスフォード大学出版局の調査によると、英国の学生の 80%が学習目的でAIを日常的に使用 している一方で、62%が「学習能力への悪影響」を懸念していることが分かりました。
👉 英国大学、生成AI主体のエンジニア養成コースを継続提供、受講生からの反発招く
さらに、学生の4人に1人は「答えにたどり着くのが簡単すぎる」と感じているそうです。
実際、英国の大学では年間7,000件ものAI不正利用が発覚しているという現実もあります。
👉 英大学生のAI使用による不正行為1年で7000件発覚、逆に盗作は減少傾向
ここで問われているのは、かなり本質的な問題です。
生成AIは、「ただの便利な電卓」なのでしょうか? それとも「カンニング装置」なのでしょうか?
答えは、その「使い方」と「環境設計」次第だと言えるでしょう。



AIがすでに学習現場に深く入り込んでいる以上、「使うか/使わないか」ではなく、「どう使わせるか」「どう付き合うか」が問われる段階に入っています
事例③|IB(国際バカロレア)の姿勢
「禁止」ではなく「倫理的活用」へ
探究型・プロセス重視の教育で知られるIB(国際バカロレア)も、生成AIへの対応を明確に打ち出しています。
👉 進歩が著しいAI生成ツールに対するIB評価ディレクターの見解は?
IBは、AIの使用を全面禁止する方針は取りません。その代わりに、
- AI生成物を使った場合はクレジット表記をする
- 使用の透明性を確保する
といった、倫理的なルール設計を重視しています。
IBの考え方はシンプルです。
生成AIの不正使用は、本質的には「論文の代筆」と何も変わらない。
だからこそ、最新技術を排除するのではなく、「どう使うか」を教えるリテラシー教育に軸足を置くという姿勢を取っています。
この3つの事例が示していること
ここまでの事例は、方向性こそ違いますが、共通点があります。
それは、教育の焦点が、「何を教えるか」から「どう学ぶか」へと、確実に移動しているということです。
AIは、もはや「特別な道具」ではありません。電卓や検索エンジンと同じように、前提条件として存在する時代に入りました。
だからこそ、これからの教育で問われるのは、
- AIに何を任せるのか
- 人間はどこに時間とエネルギーを使うのか
- 子どもに「どんな学び方の癖」を身につけさせたいのか
という、教育の設計思想そのものなのです。
第2章|点数の時代は終わるのか? ― 試験の再発明
―― AIは「評価のものさし」そのものを変えつつある
「いい学校に行くには、いい点数を取ること」
この考え方は、長いあいだ教育の前提でした。しかし今、その“点数中心の評価”という仕組みそのものが、静かに、しかし確実に揺さぶられています。
背景にあるのは、言うまでもなくAIの存在です。
「答えを出す力」だけを測る試験は、AIの前では意味を持ちにくくなりつつあります。では、これからの試験は何を測ろうとしているのでしょうか。
2025年、いくつかの象徴的な変化が世界で起きています。
変化①|TOEFL iBT 新形式(2026年1月〜)
「一律テスト」から「個別最適化テスト」へ
2026年1月から、TOEFL iBTは近年まれに見る大幅なリニューアルを迎えます。その最大の特徴が、アダプティブ方式(Adaptive Testing)の導入です。
👉 2026年1月21日よりTOEFL iBTが大幅アップデート、問題形式のほかスコア表示変更も
これは、受験者の回答に応じて、次に出てくる問題の難易度が変わる仕組みです。
これまでの試験では、
- たまたま得意な分野が出た人
- たまたま苦手な形式に当たった人
で、実力とスコアがズレてしまうことも少なくありませんでした。
アダプティブ方式では、受験者のレベルに応じた問題が出続けるため、「その人の実力帯」をより正確に測りやすくなると期待されています。
ここで起きているのは、単なる形式変更ではありません。全員が「同じテスト」を受ける時代から、一人ひとりに最適化された「個別テスト」の時代へ、評価の思想そのものが、変わり始めているのです。
変化②|Duolingo 英語テスト
AI対話型スピーキング(2025年7月〜)
Duolingo English Testは、2025年7月からAIとの対話によるスピーキングテストを本格導入しました。
👉 Duolingo、2025年7月よりAI技術を活かした相互型スピーキングテスト導入
これまでのスピーキング試験には、
- 試験官による評価のバラつき
- 録音形式の不自然さ
- 実際の会話とかけ離れたやり取り
といった課題がありました。
AI対話型テストでは、こうした問題を技術的に解消しつつ、より「実際のコミュニケーションに近い形」で英語力を測ることが可能になります。
この変化が意味するのは、とても大きなことです。
もはや「型を暗記して答える英語」では通用しない、「その場で考えて、相手とやりとりする力」が問われる試験は、知識テストから「思考と運用力のテスト」へ確実にシフトしています。
変化③|大学評価の見直し(専門家の提言)
AIの普及によって、大学教育の評価方法そのものにも疑問が投げかけられています。
とくに問題視されているのが、
- 自宅で作成するエッセイ
- 長期間かけて仕上げるレポート課題
です。
これらは、生成AIが関与する余地を完全に排除できません。そのため専門家の間では、「エッセイ執筆を重視しすぎる評価制度は、もはや現実的ではない」という意見も出ています。
👉 生成AI革命的進化への対応策、専門家は試験プロセスや評価方法の見直しを提言
代替案としては、
- 書いたエッセイをもとに試験官と口頭試問する
- 思考プロセスそのものを対話で確認する
といった、「理解の中身を直接確かめる評価」の必要性が議論されています。
「点数」は消えない。でも「点数の意味」は変わる
ここで大切なのは、「試験がなくなる」という話ではありません。
むしろ、試験は残る。でも、測ろうとしているものが変わるという変化です。
これからの評価は、
・どこまで暗記できたか ではなく、
・どう考え
・どう説明し
・どう応用できるか
という、「思考の質」そのものに、より近づいていきます。
そしてこれは、保護者にとってとても重要なメッセージでもあります。これからの時代、「点数を取る練習」だけをしていても、評価の本質には近づけない。
学び方そのものを、少しずつ作り替えていく必要がある――第3章では、そのヒントになる「スローペース学習」という逆説的な考え方を見ていきます。
第3章|AI時代に「考えるスピード」を落とすという選択
―― 速さの時代に、あえて“遅く学ぶ”という戦略
AIは、圧倒的なスピードで情報を処理します。調べる、要約する、答えを出す――そのすべてが、人間よりもはるかに速い。そんな時代に、私たちはつい思ってしまいます。
「もっと効率よく」
「もっと早く」
「もっと先取りで」
けれど本当に、学びもスピード勝負でいいのでしょうか。実は今、教育の世界では「速く学ぶ」ことへの見直しが、静かに始まっています。
「スローペース学習」という逆説
アメリカの高校英語教師、キャスリーン・ビーチボード氏は、次のような考え方を提唱しています。
カリキュラムを急いで消化するより、テーマを絞って“深く”学ぶほうが、結果的に学力は伸びる。
👉 意図したスローペースな学習が根本的な理解を促すという米国人教師の見解
一見、時代に逆行しているように見えるこの考え方ですが、最新の脳科学研究でも、
- ゆっくり考える
- 何度も行き来する
- 自分の言葉で説明する
といったプロセスが、記憶の定着や理解の構造化を強く促すことが示されています。
「スローペース学習」とは、単に“のんびりやる”という意味ではありません。正しいことを、きちんと理解するまで、きちんとやる。という、思考の密度を高める学び方なのです。
速さは「理解」を保証しない
AI時代の最大の特徴は、「速さ」です。
・すぐ答えが出る
・すぐ要点がまとまる
・すぐ次に進める
便利です。圧倒的に。でも、ここにひとつ大きな落とし穴があります。
速く進んでも、深く理解したことにはならない。
たとえば、
- 解き方は覚えているけど、なぜそうなるかは説明できない
- 答えは合うけど、少し形が変わると途端に手が止まる
こうした状態は、「処理できている」だけで、理解しているとは言えません。
AIは、この「処理」を極限まで高速化してくれます。だからこそ、人間側は意識的に、
- 立ち止まる
- 考え直す
- 言語化する
という時間を取らなければ、思考の筋肉は育たないのです。
AI時代の“正しい役割分担”
ここで重要なのは、「AIは速さ担当、人間は深さ担当」という役割分担の発想です。
AIに:
- 情報収集
- 整理
- 比較
- 下書き
を任せるのは、とても合理的です。
でもそのあと、
- なぜそうなるのか
- 本当にそう言えるのか
- 別の見方はないのか
を考える部分は、人間にしかできません。速さをAIに任せることで、人間は「考えること」に、より多くのエネルギーを使えるはずなのです。
速さは、武器になる。でも、深さがなければ、意味はない。AI時代の学びは、「どれだけ早く終わるか」ではなく、「どれだけ深く理解したか」で価値が決まっていきます。
だからこそ、あえて「考えるスピードを落とす」という選択は、これからの時代、とても戦略的な学び方になるのです。
次の第4章では、この「思考の質」を守るために欠かせない、スマホやテクノロジーとの付き合い方そのものを見直していきます。
第4章|スマホとAIに“囲まれて学ぶ”時代の設計図
―― 禁止か自由か、ではなく「環境」をどうつくるか
いまの子どもたちは、生まれたときからスマホとネットがある世界で育っています。調べ物も、連絡も、動画も、ゲームも、すべてが手の中にある時代です。
便利です。圧倒的に。でも同時に、多くの保護者や学校現場が、こんな実感も抱いています。
「集中力が続かない」
「気がつくとスマホを触っている」
「勉強している“つもり”になってしまう」
では、スマホやAIは、学びにとって“悪”なのでしょうか。実は世界の教育現場では、「使うか・使わないか」ではなく、「どういう環境を設計するか」という議論に移っています。
「意志」に頼ると、だいたい負ける
アメリカの教員と10代生徒を対象にした調査では、
- 教師の約8割が「スマホは学習を著しく妨げる」と回答
- 一方、生徒の約半数は「影響はない」と回答
という、はっきりした認識のズレが確認されました。
👉 学校外1日2~4時間のスマホ利用、学業を妨げない可能性がOECD最新統計から浮上
さらに、公立学校の成功事例を分析すると、成績や集中力が改善している学校の多くは、ある共通点を持っていました。
それは、スマホを「本人の意志」に任せず、物理的に遠ざけているということ。ロッカーに預ける、教室に持ち込ませないなど、「我慢させる」のではなく、「触れない構造」にしているのです。
👉 米国公立校教員向け調査、意志に依存しない携帯電話使用ポリシーこそ効果的と判明
これは、子どもが弱いからではありません。
スマホは、人間の注意力を奪うように設計されていからです。個人の意志で対抗するのは、そもそも無理ゲーなのです。
オランダは「国ごと」スマホを遠ざけた
オランダでは、2024年1月から国のガイドラインとして教室内へのスマホ持ち込みを原則禁止しました。
導入前は、生徒側からも反発や不安の声がありましたが、実際に始まってみると、
- 集中しやすくなった
- 授業が分かりやすくなった
- 成績が上がった
といったポジティブな声が、想像以上に多く報告されています。
ここから見えてくるのは、とてもシンプルな事実です。人は、環境に強く影響される。
「禁止」か「自由」か、ではなく
この話は、「スマホは悪だから全部禁止しよう」という話ではありません。
大事なのは、
- いつ
- どこで
- 何のために使うのか
が、設計されているかどうかです。
- 調べ学習では使う
- 提出物作成では使う
- でも、授業中や思考タイムは使わない
こうしたメリハリのある環境設計が、これからの学びの質を大きく左右していきます。
AIも同じ。「便利すぎる」からこそ設計が要る
AIも、スマホとまったく同じ構造を持っています。
- すぐ答えが出る
- 考えなくても形になる
- 努力した気分になれる
だからこそ、使い方を設計しないと、「考えない学習」へ一気に流れる 危険もはらんでいます。
第3章で触れたように、「AIは速さ担当、人間は深さ担当」という役割分担が守られるように、「どの場面でAIを使い、どの場面で使わないか」を、環境として決めておくことがとても重要になります。
子どもの集中力や思考力は意志ではなく、環境で守る。
テクノロジーの時代の教育は、「使わせるか、禁止するか」ではなく、「どういう学習環境を設計するか」の勝負になっています。
家庭でも学校でも、この視点を持てるかどうかが、これからの学びの質を大きく左右していきます。
次の第5章では、こうした環境の中で実際に登場し始めている「新しい学習ツール」そのものを見ていきます。
第5章|新しい学習ツールの可能性
――「先生の代わり」ではなく、「学びを支える補助線」として
AIをはじめとするテクノロジーの進化によって、学習を支えるツールそのものも、大きく姿を変え始めています。少し前まで「学習ツール」といえば、ドリル、問題集、動画授業といったものが中心でした。
ところが今は、
- 悩みを聞いてくれるAI
- 耳で学ぶポッドキャスト
- 「答えを教えない」AI学習モード
など、「学び方そのもの」を変える道具が登場し始めています。大事なのは、これらを「先生の代わり」にするのではなく、「学びを続けるための補助線」として使う、という視点です。
ツール1|AIチャットカウンセリング
――「相談できない」を減らす、新しい受け皿
子どもにとって、「誰かに相談する」という行為は、大人が思っている以上にハードルが高いものです。
- こんなことで相談していいのかな
- 怒られるかもしれない
- 心配かけたくない
そんな気持ちから、悩みは意外と表に出てきません。
そこに登場してきたのが、否定せず、24時間いつでも話を聞いてくれるAIチャットです。
👉 AIチャットが学生のストレス分析や身近な相談パートナーとして活躍の兆し
専門家は、デジタルネイティブ世代にとって、「人間よりも気軽に話せる相談相手」になり得ると分析していますもちろん、人間のカウンセラーが不要になるわけではありません。
でも、
- いきなり大人に話すのは無理
- でも、誰かに聞いてほしい
という層にとって、「最初の受け皿」として、かなり重要な役割を果たし始めています。
ツール2|子ども向けポッドキャスト
――「目を使わない学び」が、逆に新しい
動画とスマホに囲まれた時代だからこそ、今、「耳で学ぶ」ポッドキャストが見直されています。特に子ども向けコンテンツでは、
- 移動中に聞ける
- 画面を見ないで済む
- 親子で一緒に聞いて、話題にできる
といった特徴が評価されています。
👉 ポッドキャストは子どものスクリーンタイム問題の解決に貢献する?良質な教育ツールとしての可能性
スクリーンタイムを減らしながら、それでも知的刺激は確保できる。
しかも、「聞いたあとに、親子で話す」という時間が生まれることで、学びが“会話”に変わるという副次効果もあります。
視覚優位の時代だからこそ、聴覚から入る学びの価値が、あらためて見直され始めています。
ツール3|ChatGPT「Studyモード」
――「すぐ答えを出さないAI」という逆転の発想
生成AIの学習利用には、常にこんな不安がつきまといます。「考えずに答えだけもらうようになるのでは?」
それに対してOpenAIが導入したのが、ChatGPTの「Studyモード(学習モード)」です。
👉 ChatGPTが学術的利用に適した「学習モード」を新発表、ツール悪用事例の増加も憂慮
このモードでは、
- いきなり答えを出さない
- 考え方のプロセスを重視する
- 問い返しやヒント中心で進む
という設計になっています。
つまり、「ズルできない家庭教師」みたいな存在です。もちろん、生成AIが学習効率を高めるのは間違いありません。
ただし同時に、使い方を間違えれば、「考える力」を削る道具にもなるという危うさも抱えています。だからこそ今、「考えさせる方向に設計されたAI」が出てきている、というのはとても象徴的な変化です。
それでも、最後に残るのは「人の役割」
ここまで見てきたように、新しい学習ツールは、
・学びを支える
・相談のハードルを下げる
・理解のプロセスを助ける
といった意味で、確実に価値を持ち始めています。でも同時に、はっきりしていることもあります。
- 倫理観
- 価値判断
- 何を良い学びとするか
こうした部分は、道具には委ねられないということ。
だからこそ、教師や大人の役割は、「教える人」から「使い方を設計する人」へシフトしていくのかもしれません。
新しい学習ツールは、「考えなくてよくなる道具」ではなく、「考え続けるための補助線」になれるかどうか。その使い方を決めるのは、いつも大人側の設計です。
第6章|グローバル教育の最前線
――「学力」だけでは測れない時代に、世界は何を育てているのか
世界の教育現場では、すでに「テストの点数」や「知識量」だけでは語れない変化が起きています。
何を知っているか、ではなく どんな環境で、どう育つか。その発想にシフトし始めているのが、今のグローバル教育のリアルです。
この章では、「え、そんなところに注目するの?」と思うような切り口から、これからの教育の価値観を垣間見ていきます。
① 環境が子どもの“身体”をつくる(フィンランド)
まず紹介したいのが、フィンランドの取り組みです。
フィンランドでは、国の助成金を使って保育園の環境を“再野生化”するプロジェクトが進められています。
👉 フィンランド教育、自然に囲まれて学ぶ保育環境が子どもの健康面にも好影響
アスファルト中心の園庭を、土・草・植物のある自然環境に変えたところ、
- 免疫システムが強化された
- アレルギー反応が減った
という変化が、3〜5歳児の調査で確認されました。これは単なる「健康の話」ではありません。
- 体を使う
- 感覚を使う
- 自然と触れ合う
こうした経験そのものが、子どもの発達の土台をつくっているという示唆でもあります。デジタル化が進む時代だからこそ、「五感を使う学び」の価値が、逆に浮かび上がってきています。
② 成績よりも「経験」が将来を左右する?(英国)
次はイギリスの調査データです。英国の調査会社のレポートによると、課外スポーツに取り組んだ女子生徒は、将来トップ職に就く確率が 50%も高いという結果が出ています。
👉 英国、放課後にスポーツをする女子がトップクラスの仕事に就く確率50%上昇
しかもその影響力は、「大学の学位を取ること」と同等レベルと評価されています。
さらに、スポーツ経験のある生徒は、
・困難に直面したときの粘り強さ
・新しい挑戦への前向きさ
といった面でも、明確な差が見られたそうです。ここから見えてくるのは、学歴や成績だけでは測れない「経験資本」の重要性です。
③ 「いい大学」より「いい環境」へのシフト
これらの事例が示しているのは、どの学校に行くか・どんなカリキュラムか以前に、どんな環境で、どんな体験を積むかという視点が、確実に重みを増しているということです。
自然環境、スポーツ、課外活動、探究、プロジェクト学習。これらはすべて、
- 自己肯定感
- 協働力
- 粘り強さ
- 挑戦する力
といった、テストでは測れない力に直結しています。
④ 「学力偏重」から「全人的成長」へ
もちろん、学力が不要になるわけではありません。でも世界の教育は明らかに、学力“だけ”では足りないという前提に立ち始めています。
- 身体
- 感情
- 社会性
- 価値観
- 人間関係
これらを含めた、全人的な成長こそが、長い人生を支える基盤になる、という考え方です。
グローバル教育の最前線が示しているのは、「どれだけ知っているか」より「どんな人として育つか」という問いです。そしてこれは、海外の話であると同時に、日本の家庭教育にもそのまま返ってくるテーマでもあります。
第7章|大学の新しい形
――「学位を取る場所」から「世界とつながる場所」へ
「大学は4年行くもの」「修士は2年」そんな前提が、静かに崩れ始めています。
いま世界の高等教育は、どこで学ぶか・何年学ぶか よりも、どう世界とつながるか・どんな経験を積むかを中心に再編され始めています。
① 「年数固定」という発想が壊れ始めている(日本:5年一貫プログラム)
日本でも、大学制度の大きな転換が始まっています。
文部科学省は、学士・修士一貫制の教育課程を本格的に推進。その象徴が、東京大学が2027年に開設予定の「カレッジ・オブ・デザイン」です。
👉 文科省、学士·修士5年一貫制を推進する意向。院進学率上昇狙うもインセンティブ等に疑問符
最短5年(学士4年+修士1年)で修了できる英語学位プログラムは、「まず4年学士を出てから次を考える」という従来モデルから、「研究と社会実装を見据えて、最短ルートで育てる」という発想への転換でもあります。
一方で、
- 産業界とのミスマッチは起きないか
- 研究分野の移動性が失われないか
といった懸念の声もあり、「効率」と「多様な経験」のどちらを重視するか という価値選択が、学生側にも突きつけられています。
② 「留学」の定義が変わり始めている(大学分校の世界的拡大)
実はいま、「海外に行って学位を取る」だけが留学ではなくなりつつあります。2025年時点で、海外大学の分校は85カ国・384校(2年間で15%増)まで拡大。
👉 地政学的緊張にも動じず大学分校の拡大トレンド継続、米・英・露が海外展開を先導
特に、
・インド
・中東地域
では、英国・米国・豪州の大学が、現地にキャンパスを作って学位を提供する動きが加速しています。つまり、「母国にいながら海外大学の学位を取る」という新しい留学の形が、現実になってきています。
👉 大学の定員不足深刻なスリランカ、約3年でオーストラリアの3大学が海外分校を新設
③ 「研究者」は国家戦略の資源になった(頭脳獲得競争)
2025年は、世界規模の研究者争奪戦が一気に可視化された年でもありました。アメリカの研究環境悪化をきっかけに、
など、各国が一斉に動いています。これは、大学が「教育機関」であると同時に、国家の競争力装置になっていることを意味します。
④ 大学は「知識を配る場所」ではなくなった
これらの動きを総合すると、はっきり見えてくるのは、大学の役割そのものが変わってきている という事実です。
これからの大学は、
- 知識を教える場所 → AIがやる
- 単位を出す場所 → 価値は相対化
ではなく、
- ネットワークに接続する場所
- プロジェクトに参加する場所
- 研究と社会をつなぐ場所
へと、役割をシフトしていきます。
「どの大学に行くか」より「大学をどう使うか。これが、これからの進学観の中心になります。学歴はゴールではなく、世界に参加するための“プラットフォーム”になっていく。
第8章|AI時代に求められる力とは?
――「賢さ」の定義が、静かに入れ替わっている
「これからはAIの時代だから、英語や勉強のやり方も変わるらしい」そんな話はよく聞くけれど、結局、うちの子は何ができるようになればいいの? ここが一番モヤっとしますよね。
AIが、
- 調べる
- まとめる
- 書く
- 解く
を高速でやってくれる時代に、人間に残る価値はどこにあるのか。世界の教育現場や大学が、今まさに重視し始めているのは、次の4つの力です。
① 批判的思考力(「それ、本当に正しい?」と考える力)
生成AIはとても便利ですが、間違ったことも平気でそれらしく言います。
しかも、AIは「もっともらしい答え」を作るのが得意・正しさを保証する装置ではない という、ちょっと怖い性質を持っています。だからこれからは、
- AIの答えをそのまま信じない
- 情報源を確認する
- 他の見方がないか考える
といった、「疑う力」こそが知性になります。
家庭でできること
- ニュースやSNSの情報を「それ本当?」と一緒に確認する
- AIの答えを親子で検証する癖をつける
② 創造性・独自性(「なぜそう思った?」を持てる力)
AIは、平均点の高い答えはとても得意です。でも、「その子ならではの視点」は作れません。
だからこれからは、
- なぜそう思ったのか
- 自分はどう感じたのか
- 別の可能性はないか
という「答えの外側」に価値が移っていく時代になります。
家庭でできること
- 正解より「考えた過程」を聞く
- 作品や意見に「どうしてそうしたの?」と問い返す
③ 倫理観・価値判断(「それ、やっていい?」を考える力
AIは、
- 誰かを傷つけるか
- ズルになるか
- 不公平にならないか
を自動では判断してくれません。これからは、「できるか」より「やっていいか」を考えられる人が、圧倒的に信頼されます。
家庭でできること
- AIの使い方について「これはOK?これはどう?」と話す
- ズルやごまかしの話題を一緒に考える
④ 人間関係構築力(「一緒にやろう」と言える力)
これは、AIにはほぼ代替できません。
- 意見が違う人と話す
- チームで何かを作る
- 感情を読み取り、調整する
こうした力は、人と人の間でしか育たない能力です。そして実は、海外大学や企業が一番見ているのは、ここだったりします。
家庭でできること
- 課外活動、プロジェクト、チーム経験
- 異年齢・異文化の人との接点を増やす
AI時代に強い子は、「AIを使える子」ではなく「AIと一緒に考えられる子」です。
テストの点数や処理速度よりも、
- どう考えたか
- どう選んだか
- どう人と関わったか
が、そのまま人生の価値になっていく時代に入っています。
第9章|親・教育者の役割
――「教える人」から「環境をつくる人」へ
AI時代の学びの話をしていると、よくこんな声を聞きます。
「結局、親は何をすればいいんでしょうか?」
「もう学校の先生だけに任せておける時代じゃないですよね……」
でも実は、親や教師が“専門家”になる必要はありません。求められているのは、「正解を教える人」ではなく
「学びが育つ環境を整える人」という役割へのシフトです。
親に求められる4つの役割
① 情報を学び続ける存在であること
AIや教育の変化は、想像以上に速く進んでいます。
だからこそ大事なのは、「全部わかる」ことではなく「一緒にアップデートし続ける」姿勢。親が学び続ける姿は、それ自体が最強のロールモデルになります。
② 環境を設計すること(スマホ・時間・空間)
AIやスマホは、使い方次第で、最高の道具にも、最悪の誘惑にもなる。だから重要なのは、
- ルールを決めること
- 時間の使い方を一緒に考えること
- 集中できる環境を物理的につくること
意志に任せない「仕組みづくり」です。
③ 「指示」ではなく「対話」をすること
「それはダメ」「こうしなさい」は簡単ですが、これからの時代に育てたいのは、「自分で考えて選ぶ力」。
そのためには、
- なぜそう思ったの?
- どうしたいと思ってる?
- 他の選択肢はあるかな?
という問いかけの会話が、何より大切になります。
④ 親自身が「AIとの付き合い方」を見せること
子どもは、言葉より行動を見ています。
- 調べ物をどうしているか
- AIをどう使っているか
- 楽をするために使っているのか、考えるために使っているのか
親の使い方が、そのまま子どもの基準になると思っておいた方がいいです。
教育者に求められる役割の変化
学校の先生にも、今まさに大きな役割の転換が起きています。
① 知識を教える人 → 思考を促す人へ
AIが、
- 説明
- 要約
- 演習
を高品質で提供できるようになった今、教師の価値は「何を教えるか」より「何を考えさせるか」に移っています。
② AIリテラシーと倫理を教える存在
AIは、ナイフや車と同じ「強力な道具」です。
だから、
- どう使えばいいか
- どこからがアウトか
- 誰かを傷つけないか
を教えるのは、教育の役割そのものになっていきます。
③ 評価のあり方を再設計する役割
暗記や正解当てではなく、
- 思考のプロセス
- 試行錯誤
- 創造性
- 協働の姿勢
をどう評価するか。ここは、教師の専門性が最も問われる領域になっていきます。
④ 教師自身も学び続ける存在であること
生徒にAIの使い方を教えるなら、少なくとも、生徒より一歩先を知っている必要がある
これはプレッシャーでもありますが、同時に教育が進化するチャンスでもあります。AI時代の教育は、「教える人」だけでは成り立たない。親と教師が「学びの伴走者」になる時代です。
そして何より大切なのは、「完璧な正解を用意しようとしないこと」。
一緒に迷い、一緒に考え、一緒にアップデートしていく。それこそが、これからの時代のいちばん強い教育姿勢です。
第10章|2026年以降の「学びの未来」予測
――テクノロジーが進んでも、「人間にしかできない学び」は残り続ける
ここまで見てきたように、AIはすでに学びの風景を大きく変え始めています。では、この流れはこの先どこへ向かうのでしょうか。
未来は誰にも断言できません。でも、いくつかの「かなり確度の高い変化」は、すでに輪郭を見せ始めています。
① 直近1〜2年:AI前提の試験と学習が「当たり前」になる
まず起こるのは、とても現実的な変化です。
- AIを前提とした資格試験・語学試験の拡張
- AI使用を想定した不正対策や評価設計の見直し
- 「使うか/禁止するか」ではなく「どう使わせるか」への議論の移行
「AIはあるもの」として制度が再設計される段階に入っていくでしょう。これはもう、後戻りしません。
② 2030年頃まで:AI家庭教師と「超・個別最適化学習」の普及
少し先の未来では、質の高いAI家庭教師が、かなり一般的な存在になる可能性が高いです。
- 得意不得意
- 理解スピード
- 興味関心
に合わせて、学習が完全にパーソナライズされる。すると、学校や塾の役割も変わってきます。知識を教える場所 → 「経験と人とのつながりを得る場所」へ。
③ 大学の意味が変わる:「知識」より「ネットワークと経験」
この流れの中で、大学も変わります。
- 知識はAIで学べる
- 講義はオンラインで受けられる
となると、大学の価値は、「誰と出会い、何を経験し、どんなプロジェクトに関わるか」に、どんどん寄っていきます。
つまり、大学=学歴を取る場所→ 大学=人生のフェーズを切り拓く拠点 みたいな存在に近づいていくイメージです。
④ 10〜15年スパン:世界の大学地図が書き換わる
さらに長期で見ると、もっと大きな変化も見えてきます。
- 中国の出生率低下による留学生市場の縮小
- 研究者の国際移動の加速
- 国をまたいだ大学再編・勢力図の変化
「どこの国のどの大学が強いか」は、今とはかなり違う地図になっている可能性が高いです。
また、「生涯学習」が本格的に標準化し、20歳前後だけが大学に行く時代→ 何歳でも学び直す時代 になっていくでしょう。
それでも変わらないもの
ここまで読むと、「なんだか落ち着かない時代だな……」と思うかもしれません。
でも、ひとつだけはっきり言えることがあります。どれだけテクノロジーが進んでも、人間らしい価値は消えないということです。
- 人と協働する力
- 深く考える力
- 意味を問い直す力
- 創造する力
- 共感する力
これらは、AIが肩代わりできない領域です。
これからの学びは、「変化に適応する力」を育てる学びになる。
そして、AI時代だからこそ、「人間らしさ」を育てる教育が一番大事になるという、ちょっと逆説的だけど、とても本質的な時代に入っていきます。
完璧な進路選択も、完璧な教育設計も、存在しません。
でも、一緒に考え続けること変化を前提にアップデートし続けること。それだけは、どんな時代でも裏切らない戦略です。













