神奈川県出身の立石安韻さんは、郁文館グローバル高校(東京)を卒業後、イギリスとカナダで学び、2024年10月にカナダ・バンクーバーのアレクサンダー・カレッジ(Alexander College)を卒業。
取得した準学士号(Associate of Arts)の単位は、10年以内であればカナダの4年制大学に編入する際にそのまま活用できる制度があります。
現在は日本で社会人として働きながら、再びカナダで学ぶ準備を進めている立石さん。
海外進学ラボ“行って、帰って、また行く”という往復型のキャリアのなかで、彼女は何を感じ、どんな未来を描いているのでしょうか
英語で生きると決めた高校時代|1年間のトロント留学で学んだ“YES”より大切なこと
立石さんが通っていた「郁文館グローバル高校」は、全員が1年間の海外留学を経験するユニークな学校です。
1年生のころから、英語の授業はもちろん、ゼミ形式での探究活動や企業体験が行われており、「英語で何を学び、どう社会とつながるか」を実践的に考える環境が整っていました。


立石さんは、ツーリズムゼミに所属して、日本を訪れる外国人旅行者をサポートする活動をしたり、文化祭では生徒が自分たちで“お店”を企画して運営しました。



高校生ながら、英語を使って実社会と関わる経験ができました
2年生ではカナダ・トロントへ1年間の留学へ。はじめての長期海外生活は、刺激と戸惑いの連続でした。
欧米では、“イエス・ノーをはっきり言う文化”と思い、野球の試合に誘われたときに“興味がない”と断ったら、ホストファミリーの雰囲気が悪くなってしまい…。
「今思えば、行ってみれば良かったんですよね。YESと言うことより、“試してみる勇気”が大事だと学びました」


ホストを変えてからは、家族と一緒にロードトリップに出かけたり、現地の生活にどんどんなじんでいきました。
「とりあえずやってみる」が、立石さんの留学のモットーになった瞬間です。
イギリスでの挑戦と体調不良|「合う・合わない」を知った20歳の決断
高校を卒業した年の8月、立石さんはイギリス・ロンドン郊外の「ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ」ファンデーションコースに進学します。
ハリーポッターの世界観が好きで、憧れのイギリス英語を学び始めましたが、思わぬ壁にぶつかります。



気候が合わず、毎月のように38度の熱を出していました。体調を崩すと出席日数も足りなくなって、勉強どころじゃなくなってしまって
イギリスの文化や距離感にもなじめず、“無理をして続けることが正解ではない”と感じ、1年で帰国。
この経験は、「自分に合う環境で学ぶことの大切さ」を実感するきっかけになりました。
カナダ・バンクーバーで再挑戦|“ちょうどいい距離感”で学べる街
2021年11月、立石さんは再び海を渡ります。行き先はカナダ・バンクーバー。
トロントでの留学経験から、「カナダの文化は自分に合っている」と感じていたそうです。



トロントはビジネス街の印象が強いですが、バンクーバーはスローライフで穏やか。人と人との距離も近くて、安心感がありました


最初は、大規模な公立カレッジ「ランガラ・カレッジ(Langara College)」のLEAPプログラムに入学。
留学生向けの英語準備コースで、レベル5から始めて最終のレベル8まで修了しました。


「LEAPではリーディング・ライティング・スピーキングを全部鍛えられます。グループディスカッションの機会も多くて、“自分の意見を伝える力”が自然と身につきました」
アレクサンダーカレッジでの学び|先生と学生の距離が近い“少人数の環境”
LEAP修了後、準学士課程に進むための英語力を身につけたので、「アレクサンダー・カレッジ(Alexander College)」に進学。公立カレッジのランガラとは対照的な、少人数制で先生が毎日のように個別対応してくれる環境が魅力でした。



ランチアワーに先生の部屋を訪ねて、質問をするのが日課でした。授業中に分からなかったことをその日のうちに解決できるので、安心感がありました
専攻はAssociate of Arts(ジェネラルアーツ)。


一般教養のような授業を「自分の興味を組み合わせて学べる」柔軟なプログラムで、心理学から映画史まで幅広く学びました。なかでも印象に残ったのはフィルムの授業です。
「映画を通して“時代や社会がどう変化したか”を分析する授業が面白くて。自分の感性を言語化する力がついたと思います。」
文化の違いを越えて|“Japan Club”設立のきっかけ
当時のACでは、学生の7〜8割がインド出身。日本人学生は数えるほどしかいませんでした。
そのなかで立石さんは、「同じ立場で情報を交換できる場がほしい」と感じ、Japan Clubを設立しました。
「最初は小さな集まりでしたが、“日本人だけの閉じた場”じゃなく、他国の学生も交流できるように工夫しました。海外では、自分から動かないと何も変わらない。そう実感しました」
2年間の滞在中、学生マンションで日本人のルームメイトと暮らしながら、お互いに英語で話し合い、支え合いながら生活。


体調を崩したときもルームメイトがポカリスエットを買ってきてくれるなど、思いやりに助けられたそうです。
帰国して気づいたこと|日本で働くからこそ見えた世界の違い
2024年10月に準学士号を取得し、帰国。現在は日本の留学エージェント会社の管理部で勤務しています。
「主な仕事は、授業料の送金や人事関連の手続き、Webサイトの更新など。 留学生を支える“裏方の仕事”です。現地の学校や保護者、エージェントの間を調整するので、英語力も活かせています」
日本の職場文化については、「チームワークの強さ」と「働き方の硬さ」の両面を感じているといいます。
「日本はみんなで助け合う文化が素晴らしい。でも、個人の意見が通りにくい場面も多くて、もっと柔軟でもいいのにと感じます。やっぱり、海外の“フラットな関係”のほうが自分には合っていると思いました」
編入という“次の挑戦”へ|もう一度カナダで学ぶ理由
仕事を始めてまだ1年も経たないうちに、「やっぱりもう一度、海外で学びたい」という思いが強くなったと立石さんはいいます。
カナダで取得した準学士号(Associate of Arts)の単位は、10年以内であればカナダの4年制大学に編入する際にそのまま活用することができる制度があります。
立石さんはその制度を生かし、次はフィルム系の大学への編入をめざしています。



その制度を活用してフィルム系の大学に編入し、映像の力で社会にメッセージを届けられるようになりたいです
現在は永住権の取得も視野に入れながら、再渡航の準備を進めています。「行って終わり」ではなく、「行って、帰って、また行く」。
立石さんにとって、学びと挑戦は“途切れない旅”のようなものです。その往復のなかにこそ、自分らしいキャリアの形があると感じています。


後輩たちへのメッセージ|留学は“続いていくプロセス”
一度海外に行って帰ってきたら、終わりだと思っている人も多いと思います。
でも、行きっぱなしじゃなくてもいい。日本での経験も、次のステップにつながります。私は“行って帰って、また行く”を繰り返して、学び続けたいです。
編集部より
カナダでは、準学士の単位取得後10年以内であれば、4年制大学にそのまま編入できる制度があります。
この制度は、人生の途中で立ち止まっても「もう一度、学びたい」と思ったときに再び道を開いてくれる——そんな懐の深さを感じさせます。
立石さんのように、学びを一度きりのものにせず、キャリアの中で“続けていくもの”としてとらえる姿勢は、これからの時代を生きる多くの若者にとって希望になるはずです








自分の夢を追っているとき