「海外進学ラボ Weekly Picks」は、グローバル進学に関心のある中高生・保護者向けに、世界の教育ニュースを厳選してお届けしています。進路のヒントが“5分”で見つかる週刊特集です。
今週のWeekly Picksでは、制度・経済・技術の変化が、進路選択の前提を静かに書き換えている様子が見えてきました。
英国では留学生をめぐる制度変更が大学経営や国際化のあり方に影響を与え、米国の学生は政治や治安を背景に「どこで学ぶか」を改めて問い直しています。一方、語学留学の現場では価格競争が教育の価値を揺さぶり、教育×AIでは国家主導の改革に期待と懸念が交錯しています。
遠い国の動きに見えても、これらは数年後に「どんな進路が選べるか」を左右する要素です。気になるトピックから、自分なりの問いを持って読み進めてみてください。
イングランド留学生£925新課税、国際色の強い大学ほど高額な税負担に直面
イングランドにて2028年より導入が確実視される留学生への£925課税案。教育メディア「The Pie」は、2023~2024年度の留学生在籍データを活用し、どの大学が高額な税負担に直面しそうかを調査しました。
以下は、新課税制度による損失リスクが高い上位3校です。
①ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)
- 留学生:2万7695人
- 追加税負担額の推定 :2500万ポンド以上
②マンチェスター大学
- 留学生:1万9475人
- 追加税負担額の推定:1800万ポンド弱
③ハートフォードシャー大学
- 留学生:1万9235人
- 追加税負担額の推定:1750万ポンド以上
やはり課税案の性質上、留学生の多い大学ほど負担額が拡大する傾向にあり、とくにUCLの税額2500万ポンドは頭ひとつ抜けている印象です。
こうした課税状況が続く場合、各大学の国際化インセンティブを削ぐリスクさえも懸念されるのではないでしょうか。
副編集長 城大学により財務健全性には差があるため、この負担額順に経営危機に陥るわけではありません
出典リンク
- THE PIE | Data: who’ll be worst affected by England’s international fee levy?
- THE PIE | England’s universities face £330m loss under new £925-per-international-student levy
- イングランドの大学、2028年より留学生1人£925の定額課税を計画、大学関係者からの批判強まる(12/6号)
- 英国政府、留学生授業料に対する追加課税に前向き、一流大学への負担増大の見通し(8/6号)
イングランド50の大学が2~3年内に市場撤退リスク、業界全体の赤字化傾向収まらず
イングランドの大学規制当局「Office for students」(OFS)の調査によると、2026年は約半数の大学が赤字経営に陥るほか、イングランドの高等教育機関50校が2~3年以内に市場撤退を余儀なくされる可能性があるそうです。
特定された50校のうち、24の教育機関はより緊急性の高い状況にあり、1年以内に学位コースを停止する事態もあり得ると警告されています。また、ハイリスク評価を受けた50校中30校は小規模の教育機関に該当することも示唆されました。
ただし、本調査において小規模ではないケースも学生数3000名以上の規模にとどまることから、学生数万人を抱える主要大学ではなく、閉校しても話題になりづらい教育機関が先行して危機に瀕していることが推察されます。



英国政府は、一定の条件と引き換えにインフレに応じた授業料引き上げを認める措置を講じていますが、追加的な介入策がなければ現況を好転させるのは難しいと見られています
出典リンク
- The Guardian | Fifty higher education providers at risk of exiting market in England, MPs told
- The Guardian | English universities can raise tuition fees if they meet ‘tough’ standards, says Phillipson
米国人の留学動機、安定性や治安の優先度が上昇、国内政治情勢による影響も有力
教育市場の調査分析会社「Acumen」と「Voyage」がまとめたレポートによると、米国人学生の留学動機は伝統的な要因に支えられつつも、より留学先の安定性や安全性、私的幸福度を優先する傾向が高まったようです。
興味深いのは、こうした価値の揺らぎは米国内の社会政治的変化に影響された可能性が高いこと。
米国人学生との対話を基にAI解析を進めたところ、トランプ氏が大統領二期目の当選を果たした2024年11月を境に、留学に関するオンライン会話頻度が選挙前期間の約2倍に上昇。
会話中は悲しみや恐れの感情が多くを占め、政治情勢への言及は選挙後に287%も増加を記録しました。
希望留学先としては欧州・カナダ・英国の話題が目立ち、欧州は費用面と並んで学問の自由と民主主義の安定性、カナダは文化的な親しみやすさが好意的に捉えられたようです。



学問の不自由さや制度の不安定性など、米国人学生も留学生とほぼ同質の不安を抱えていることが読み取れます
出典リンク
- THE PIE | US students seek safety and support in education abroad
- THE PIE | Pioneering a new era in student sentiment tracking
高需要続くマルタの英語教育、値引き慣行による業界への負荷と価値の低下を懸念
英語教育分野でコロナ禍前の水準まで需要回復している人気の留学先マルタですが、パンデミック期に定着した「値引き慣行」が語学スクールの財務基盤と教育の質に悪影響を与えかねない状況が明らかになりました。
マルタ英語教育機関連盟「FELTOM」のフォーラムに参加した学校代表者41名の回答によると、66%が競争力維持のために値引き提供するプレッシャーを常時または頻繁に感じ、3分の1以上がそうした価格が教育の質を適正に反映していないと捉えているそうです。
また、妥当と感じる値引き理由を各代表者に尋ねたところ、閑散期値引きのみが多数の支持を集めたほか、約7割がスクールと代理店がより協力的な関係を構築することで現状の値引き競争は抑制可能という期待感を表明しています。



低コストがサービスの質に表れると留学需要が一転して冷え込むリスクがあり、このタイミングで業界の利害関係者が活発に意見交換する意義は大きいでしょう
出典リンク
- THE PIE | Maltese ELT sector warns against discounting
- THE PIE | Global ELT recovery stalls across major study destinations
ギリシャ政府がOpenAIとの本格提携、国主導の教育現場AI化に批判や慎重論飛び交う
2025年9月、ChatGPTを運用する「OpenAI」は、ギリシャ政府とのパートナーシップとして中等教育現場でのAI活用を推進する「OpenAI for Greece」を発表しました。
欧州においてギリシャは教育システムとAIを結ぶ最前線に立つことになり、その第一弾の取り組みでは、責任あるAI活用を教員に指南する全国規模のワークショップを実施。
その後は、アクセス監視を強化した学習向けAI「ChatGPT Edu」が、段階的に教育現場へ導入される予定です。
ただ、国全体がこうした舵取りに賛同しているとは言い切れず、アテネ中心部では現役学生も取り込んだ教育改革反対デモの動きも。
また、批判的思考力の衰退など重大リスクを抱えながら、ギリシャが新技術の実験場にされつつある状況も人々の不安を駆り立てているようです。



基本的に推進派でさえ、生成AI固有の難点は認めており「多くの規制やルールを伴った活用を模索するべき」と主張しています
出典リンク
- The Guardian | Greek secondary school teachers to be trained in using AI in classroom
- OpenAI | OpenAI とギリシャ政府、「OpenAI for Greece」を始動
次回予告:
留学選択肢の増加、コストへのシビアな価値観なども影響し、英国の大学にとっても留学生ニーズの把握は重要事項です。
そうしたなか、学生の母国でのキャリア形成を支援しようとする英国大学の動向に注目が集まっています。














いま、進路をめぐる“前提”そのものが
少しずつ形を変え始めています