オルタナティブ教育が知りたい
子どもたちの習い事や学校を探していると、繰り返し出てくるキーワードがある。
「シュタイナー」や「レッジョ・エミリア・アプローチ」、そして「モンテッソーリ」。
海外発のいわゆるオルタナティブな幼児教育法で、「日本の幼稚園で行われているような一般的な保育ではない」ということはわかるけど、なにがどう違うのかはわからない。
先日のニュースでも、英国王室のジョージ王子が「モンテッソーリ保育園」に入園したと言っていたが、それほど素晴らしい教育法なのだろうか?
まずは手はじめに、ずっと気になっていた「モンテッソーリ教育 Montessori education」について調査してみることにした。
モンテッソーリ園「子どもの家」を訪問
今回訪れたのは、「日本モンテッソーリ教育綜合研究所」(東京・大田区)に附属する保育施設「子どもの家」。
駅の反対側には、世界に誇る「キヤノン」本社があるが、そのわりに街にはのどかな雰囲気が漂っている。
環八沿いには高級住宅地として知られる田園調布(大田区)もあるため、教育に高い関心を持つファミリーが多いエリアであることは想像に難くない。
モンテッソーリ教育では、その教育手法を実践する保育施設を「子どもの家 Casa dei bambini」と称している。
こちらの子どもの家は、モンテッソーリ教師養成の通信教育などを行う公益財団法人才能開発教育研究財団「日本モンテッソーリ教育綜合研究所」が運営。
最近のブームに乗じて開設されたのかと思いきや、1979年に設立された由緒正しき保育施設だった。
モンテッソーリの理念を実践
週に何時間か、生活の一部にモンテッソーリを取り入れている園も含めて、モンテッソーリの取り組みは園によってさまざまだ。
この「子どもの家」での1日は、モンテッソーリ教育に基づいておこなわれている。
在園しているのは、2歳半から小学校就学前(年長)までのおよそ40名、各年齢の定員は十数名ほどとなっている。
この40名を通常4名のモンテッソーリ専任の先生が担当しているが、当日は園長先生も子どもたちを見守っていた。
園舎はビルの1フロアを使ったスペースにあり、広い室内は収納棚でいくつかに仕切られ、子どもたちが日常的に使うための教材がびっしり入っている。
午前中は、それぞれの子どもたちが思い思いの活動(「自由活動」と呼ばれる)をしているところだった。
そもそもモンテッソーリって?
「モンテッソーリ」は、イタリアの女性医学博士「マリア・モンテッソーリ Maria Montessori」(1870年8月31日〜1952年5月6日)が確立した教育法だ。
もともとは知的障害を持つ子どものための治療教育として考案されたが、1907年にローマに「子どもの家」が設立され、障害児に限定せずすべての子どもを対象とする教育法として世界各地に広がっていった。
日本では、1912年にはじめてモンテッソーリ教育が紹介されている。
モンテッソーリ教育の特徴
モンテッソーリの最大の特徴は、子どもの自発性や好奇心を促すために、五感を刺激する「教具」が豊富に用意されていること。
独自に開発された「教具」とよばれる上質な木製のオモチャのようなツールを用いて、子どもたちの五感を刺激し、質量や数量を学んでいく。
具体的なカリキュラムは、「日常生活の練習」「感覚教育」「言語教育」「算数教育」「文化教育」という5つの分野を実践。
「日常生活の練習」は、モンテッソーリの基礎となる分野で「運動の教育」と位置付けられている。
2〜3歳の子どもは大人がする日常生活上のさまざまな動作のマネしたがる模倣期(「身体発達と運動の敏感期」と呼ばれる)なので、この時期を利用して日常生活における作業を練習し、自分でできるようにしていく。
日常生活で用いられる道具は「用具」と呼ばれ、子どもたちはアイロンがけや包丁でキュウリを切る作業などにも挑戦する。
「言語教育」では、絵のカードや文字のカードなどを用いて、話す、読む、書くことを学んでいく。
個人の進捗具合によるが、日本語の文法(品詞の役割)も学んでいくそうだ。
「算数教育」では、金ビーズなどを使って数や量を体感することからスタートし、数の数え方(十進法)や計算(加減乗除)へと進む。
4桁の数字を使った足し算を教材として使うこともあるそうで、ビックリ。
4桁の足し算では答えに量の増減が大きくでるため、その「ダイナミック」さが子どもたちの好奇心を刺激し、興味を持つのだそうだ。
「文化教育」では、地理・歴史・生物・音楽など、子どもの興味の対象すべてが活動となり、知的好奇心や探究心を刺激する。
縦割りクラスってすばらしい!
さて、「子どもの家」での保育スタイルには、以下のようなモンテッソーリならではの特色がある。
- 2歳半から6歳までが混在する「縦割りクラス」で過ごす
- 子どもが好きな教材や教具を使う個別活動が中心
- 体育、遠足、お泊り合宿といった直接的な体験や、大きく身体を動かす体験で構成
子どもたちは9時30分までに登園し、身じたくを整え、「自由活動」がスタート。
モンテッソーリでは、子どもがやりたいこと(自発性)を尊重し、年齢や月齢に応じて変化していく個々の知的好奇心を活動や作業などに反映できる環境を整えている。
先生たちは指導者ではなく、あくまでも子どもたちをサポートするための環境の一部として関わる。
子どもたちは、それぞれ興味のあることに取り組み、静かに集中していた。
「騒ぐことなく座って作業ができるのはなぜ?」と先生に思わず質問してみると、「自分の興味のあることに没頭しているからですよ」。
そして、「ここの子どもたちは2歳半から随時入園するスタイルなので(2歳半前後が運動の敏感期)、生活のリズムができていることも大きい」とのこと。
ひとくくりに4月入園ではないので、早生まれの子が「自分だけできない」というストレスがない。
在園児もいっせいに新しい仲間を迎えるわけではないので、新入生のめんどうをみんなでみることができる。
このように、年齢にあった「自分のやりたいこと」に取り組むことができる環境では、飽きたりわからなくて持て余すことは少ないのだ。
目の当たりにした「子どもの可能性」
つぎに、真剣に先生の話に耳を傾けている子どもたちの輪に移動。
「地球の構造について」というテーマで、先生が「マントルが…」「ないかく、がいかくはどれ?」など、5、6歳の子どもが学ぶには難しい内容に目が釘付けに。
活動は、「これやってみたい!」という子どもによる申し出によって決まり、それに興味を持った子どもたちが任意で集まり、はじまる。
奥のテーブルで、裁縫や織物に取り組む子どもたち。
「数ヵ月から半年かけて、カバンを作るために織ることもありますよ」と副園長先生。なるほど、これらの活動を「お仕事」とよぶことに納得してしまった。
クロスステッチの練習をする園児の姿もある。
家庭では「針は危ないから」と排除してしまいがちだけれど、園児に扱いやすい道具を用意し、正しい使い方を説明するのだそう。
ほかにも、文字のテンプレートをつかったひらがなの練習や、恐竜の模型と名前のカードを使って活動する子どもたちなど、活動内容はさまざま。
「これはいいな!」と思ったものが、コーヒー豆をミルで引くお仕事。
話しかけると「ママのおみやげにするの!」と、とってもいい笑顔。あとで、ほかの園児が「毎日コーヒーをひいているんだよ」と教えてくれた。
お母さんへの思いやりと家庭での様子が目に浮かび、ほほえましい。
もうひとつは、ピッチャーからコップに色水を注ぐ練習。子どもサイズのピッチャーを使い、こぼしても大丈夫な環境でお仕事を行う。
ポイントは、子どもに適したサイズの用具で、本物を使うこと。
わが子も3歳くらいのとき、とにかくお茶を注いで回りたがったが、「こぼしたらイヤだから」「コップを割ったら危ないから」と進んでやらせなかったことを思い出す。
結果として「やりたい!」の旬を逃してしまい、子ども自身がめんどうだからやらない時期に突入。以降、「ママ、お茶」ということに…
長男のお手伝いやりたいブームを、「仕事に間に合わない、ママがやるね!」と奪ってしまったことをしみじみ反省した。
このような活動が1時間ほどあり、お片付けとなった。
心と身体もコントロール
つぎは、毎日恒例の「集会の時間」。時間にして20分ほど。子どもたちはコの字型に先生を囲み、静かに待つ。
着席後、「線からはみ出しているのを教えてあげてください」と先生。少しはみ出してしまった小さな子に、周りの年上の子がそっと教えてあげる。
先生から直接注意されるのではなく、子ども同士で正す姿は親目線でも心地いい。
わが家の場合、保育参観で先生から注意されるんじゃないか…と、いつもハラハラだったので些細なことだがとても印象に残った。
先生のギターで季節のうたを2曲歌い、みんなが揃ったら出席確認。いよいよ「線上歩行」へと移る。
BGMとしてクラッシック音楽が流され、床に楕円形に引かれた線からはみ出さないよう、ゆっくり注意深く歩を進める。
ただ歩くだけではない。色水の入ったコップや果物が入ったかご、ボールが乗ったスプーンなど、子どもたちが道具をひとつ選び、それを持って(乗せて)歩く。
この静けさのなかで失敗しないで行うのは、相当集中力が必要だ。
途中で中身を落としても、それを先生に咎められるようなことはない。拾い直し、ムリだと思えば道具を調整して再度歩きはじめればいい。
線上歩行の目的は、「心とからだをコントロールし、集中力を身に着けること」。なんとなく茶道に近いような?
自由保育を見学した後だったので、決められたことを行う線上歩行が厳しい内容に思えてしまう。
あとで、先生に「大人の私でもうまくできる自信がないのですが」と伝えたら、「親御さんにも体験していただいていますが、難しさを実感されるようです」。
むしろ大人のほうが難しいらしく、子どもの集中力に感心した。
子どもらしさも炸裂!
このあとは、お弁当の時間を挟んでまた自由活動だ(火曜日は体育、金曜日は造形の時間)。
ちょうどこの時間、カリュキュラムや理念について副園長先生に話を伺っていたのだが、隣の部屋でレゴがばら撒かれ、盛大に遊ぶ子供たちの声が聞こえる。
午前中の様子とはまた違う、子どもらしさが炸裂! そのダイナミックさといったら、副園長先生の声が聞こえないほど。
午後は上階のホールで遊ぶこともできるので、こちらも見学させてもらうことにした。
笑い声をあげながら、先生と追いかけっこをはじめる子どもたち。午後の活動では一転、とても活発な一面を見せてくれた。
静かに集中する時間、元気に遊ぶ時間を臨機応変に切り替えられるようになるのが、モンテッソーリ教育なのかもしれない。
モンテッソーリ教育を考える
「子どもにモンテッソーリ教育を」と考えた場合、その後の小学校での生活を想定すると、モンテッソーリの教具など一部を取り入れている集団保育(一斉保育)の幼稚園、保育園を選びがちではないだろうか?
自分で興味のあることに没頭できる環境が約束され、それにより集中できる子どもに育つモンテッソーリ教育はとても魅力的だ。
しかし、ほとんどの小学校では授業は決まったカリュキュラムをじっと座って聞くスタイル。一斉保育で事前に慣れさせておきたいのが正直なところだ。
今回見学してみて、もし幼児期をモンテッソーリ教育でと考えるのなら、「子どもの家」のようなしっかりとした理念を実践している施設を選ぶといいと思った。
モンテッソーリ教育は、一部だけを切り取って見学すると誤解を受けやすい。とくに、「線上歩行」などがそうだ(私も前後のカリュキュラムを見学しているからこそ、緊張して集中する時間が必要、と理解できた)。
子どもたちも、一斉保育が混在していると「自分のしたいことをしていい時間があるのに、なぜいまは静かにお話を聞かなくてはいけないの?」と混乱しそう。
ここでは、カリュキュラムだけでなく先生の対応も一貫していて、午後の自由活動でオモチャを広げ、笑い声をあげても「静かにしましょう」と注意することはなかった。
モンテッソーリでは、先生は「教える人ではなく、子どもを観察し自主活動を援助する人的環境要素」。私なら思わず叱ってしまいそう。
もう一点、静かに座ってお仕事をするのは「男の子に向いているのか?」ということ。とくにわが子は野性的。
これについて伺ってみると、「男の子も手先を使う作業は好きで集中できる」。
迷えば先生が興味を持ちそうな仕事を勧めてくれるそうなので、「男の子だから」と選択肢から外してしまうのはもったいない。
気になったのは、こちらの施設には園庭がないので(そのため認可外保育所の扱い)、室内で作業をすることが多い(体育の日はホールで運動を行う。多摩川までお散歩に行くこともあるそう)。
そのため、なるべく降園後は公園で遊び、スポーツ系の習い事をして補ってもらうようお願いしているとのことだ。
運動量では幼稚園や保育園のほうが勝るものの、包丁を使う作業や縫物の経験はひとり暮らしや家庭を持ったときプラスになることは間違いない。
オルタナティブ教育が注目される理由
最後に、モンテッソーリ等のオルタナティブ教育が注目を浴びているのはなぜかを考えてみた。
私の答えは、親の世代が「ゆとり教育」が失敗したのを目の当たりにしたからだろう。
大学にはいるのにAO入試などなく、ひたすら暗記して大学に入学し、卒業してみたら超就職氷河期。少し遅く生まれたかったと思った時期もあったけど、いまになればこれでよかったと思う。
必死に暗記した日本史は、大河ドラマを理解するのに役立っているし、「ゆとり教育」の内容はイマイチだったが、方向は間違っていないとも思う。
幼いころはいろんなことに興味を持ち、基礎ができたら勉強をはじめるほうがいいと思うからだ。
よし! やっぱりモンテッソーリに入園させるぞ。
…と思ってみても、親が根気よく子どもの「やりたい」に付き合ってあげることも大事と聞き、「はやくはやく」が口癖の私にはハードルがすごく高いことに気付くのだった…
【日本モンテッソーリ教育綜合研究所附属「子どもの家」幼児部】
- 住所:東京都大田区千鳥3-25-5千鳥町ビル
- 対象:2歳半〜5才
- 保育日:週5日制、3学期制(月火木金は9時半〜14時、水は9時半〜12時)
- 休園日:土日祝、職員研修日、夏休み、冬休み、春休み、行事による振替休日
- 入学金:20万5200円
- 月謝:4万1040円(別途施設料として年間6万1560円)
東京の下町で、夫と息子ふたりと暮らす英語オンチ主婦。こどもが生まれるまでは、都心のど真んなかかつ緑の多いわが街はとっても素敵なところだったけど・・・待ち構えていたのは、教育熱心なママたちとそれにちっとも応えていないお稽古空白地帯という現実だった。周りの教育熱に煽られ、毎年新学期を前に高額なプリスクールに通わせるべきか? はたまた、遠くの英語教室を探すべきなのか? いっそ習い事の選択肢がいっぱいあるエリアに引っ越すべきかと、やや迷走気味。オリンピックまでには、子どもたちが「英語大好き!」になるような道を探すことを自分のミッションとしている。