マレーシアにいる難民の子どもたち
マレーシアよりこんにちは。
今回は、「マレーシアの難民受け入れ事情<前編>」と、今年3月からボランティアをしている「難民の子どもたちの学校について<後編>」、2回にわけて書いてみたいと思います。
3才のクルド人難民・アイラン君の写真
私が難民に関心を寄せるきっかけとなったのは、2015年9月に世界中でシェアされた、クルド人難民の男の子、アイラン・クルディ君の遺体の写真です。
当時3歳だったアイラン君は、家族とともに内戦が続くシリアからギリシャへ逃れる途中、ボートが転覆して命を落としました。5才のお兄ちゃんとお母さんも同時に亡くなり、トルコの観光地ボドルムの海岸に打ち上げられました。
年齢的に自分の息子(当時5才)の姿と重なったこと、ボドルムは、マルタ島の英語学校に通っていたときのクラスメイトが住んでいる場所だったこともあり、この報道写真は本当に衝撃的でした。また、そのマルタ島周辺の海でも、難民を乗せたボートが頻繁に転覆しているというニュースを見聞きして気になっていました。
難民の、とくに子どもたちのためにできることはないだろうかーーそう感じながらも、月日はどんどん過ぎていきました。
つぎにふと目に留まったのが、2017年6月のマレーシアの新聞です。
そこには、同じアイラン君の写真に心を動かされて、ただちに行動を起こした40代のマレーシア人夫婦の難民支援活動について書かれていました。
私はこの記事を切り抜き、ノートに貼りつけてメモしました。「同じ写真を見て動いた人は、すでに世界を変えている」
また、この数年、東南アジアでは、ミャンマー西部に暮らしていたイスラム系少数民族ロヒンギャ族への迫害が盛んに伝えられるようになり、マレーシアにも大勢のロヒンギャ難民が逃れてくるようになりました。
マレーシアの難民受け入れ事情
マレーシアは現在、「第一次庇護国」として難民たちを一時的に受け入れています。
紛争や迫害を逃れてマレーシアにたどり着いた人たちは、国連の機関・UNHCR「国連難民高等弁務官事務所」のマレーシア支部に「庇護申請」をします。申請が認められると「難民」に認定されます。
マレーシアでの滞在は「一時的」なものであるため、社会保障もなく、合法的に働いたり、公的な教育や福祉を受けることはできません。難民たちはUNHCRやNGOを通じて、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどの第三国に定住できる機会を待ちます。
ちなみに、日本もアジアで初めてとなる「第三国定住」プログラムを始めていて、マレーシアからミャンマー難民を受け入れてきた実績があるそうです。定住先が決まるまでの期間は、ケース・バイ・ケースですが、平均5年ともいわれています。
2018年5月現在、UNHCRマレーシア支部に登録されている難民の数は約15万7580人(男性66パーセント:女性34パーセント)。そのうち、約4万1690人は18才以下の子どもです。
出身国別ではミャンマーが9割近くを占め、13万6560人。ほかに、パキスタン、イエメン、シリア、ソマリア、スリランカ、アフガニスタン、イラク、パレスチナなどから来た人々が続きます。
難民の子どもたちが通う学校
なにか自分にできることはないかと思っていたところ、友人がミャンマー難民の学校で英語を教えるボランティアをしていることがわかりました。
そこで、さっそく見学させてもらうことにしました。
ミャンマーと聞いて、ロヒンギャ族だと思いこんでいたのですが、この学校はチン族というキリスト教徒の少数民族が自主運営している学校です。
じつは、ロヒンギャ以外にも、ミャンマーからはさまざまな少数民族が、歴史上・宗教上の理由で軍による弾圧や迫害を受けてマレーシアに流入しています。
<ミャンマーからマレーシアへの難民の内訳>
- ロヒンギャ族(イスラム教徒/ミャンマー国籍なし)…約7万2490人
- チン族(キリスト教徒)…約3万1150人
- ミャンマームスリム (イスラム教徒)…約9830人
- ラカイン族、アラカン族(仏教徒)…約4020人
- その他の民族…約1万9070人
合計: 約13万6560人(2018年5月現在)
難民の子どもたちはマレーシアの公立学校に通うことができません。学費の高い私立の学校にも通えません。そのため、たいていは各民族内で助け合い、寄付やボランティアを頼りに、子どもたちが基礎的なことを学べる場所を作っています。
多くは雑居ビルや共同住宅の一室などを利用していて、十分な設備や運動スペースはありません。クアラルンプール周辺には、そうした難民のフリースクールが約70校あり、およそ4000人の子どもたちが通っているそうです。
教師はボランティア頼みか、難民同士で教え合うことが多く、しっかりとしたカリキュラムがあるわけでも、卒業資格が得られるわけでもありません。
年齢が上がると、家計を助けるために低賃金で違法の労働に就かざるを得ないケースが多く、13才〜18才で学校に通い続ける子は、全体の3パーセントしかいないそうです。
友人に便乗してお手伝いをさせてもらうことになった学校の外観はこちら。
この雑居ビルの片隅に、4才〜高校生までのチン族の子どもたちが学ぶスペースがあります。
続きは後編へ。
統計は、「UNHCR Malaysia」サイトを参照しました。
東京生まれ。2011年より約4年間シンガポールに滞在、2015年1月よりクアラルンプール在住。翻訳者・ライター。共訳書に「メディカル ヨガ 〜ヨガの処方箋〜」(バベルプレス)、書籍「アンコールの神々 BAYON」(小学館)、WEBサイト「シンガポール経済新聞」、「シンガポールナビ」、マレーシア在住日本人向けフリーマガジン「Weekly MTown」などに記事を寄稿。グローバルエデュ 姉妹サイト「旅キッズ」で「てくてくシンガポール」を連載。