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英語以前に必要となる力とは? ICUも動き始めた「探究型早期グローバル教育」の試み

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英語以前に必要とされる力

グローバル教育では、学びのツールとして英語が必須となってきているが、英語の先にある学びとはなんなのだろうか。

海外に目を向けると、「クリティカルシンキング」を基本とする探究型の学びを初等教育から大学まで一貫して行うことがグローバルスタンダードとなっている。

日本に視線を戻すと、明治時代以来、義務教育においては「正解ありきの教育」(正解主義)がスタンダードとなっており、探究型の学びとは対極にある環境だ。

急速にグローバル化し多様化する世界では、答えを詰め込むだけの勉強ではもはや通用しないと、多くの親も気づきはじめている。

しかし、気づいていながらもモヤモヤしてしまうのは、なかなか変らない学校やシステムを前に、どうすればいいのか代替案が見当たらないからではないだろうか。

今回は、このような状況にいち早く対処し、日本の初等教育過程において探究型の学びを実践している学校にフォーカスしてみたいと思う。

未来を創造する学校

東京・中野にある「東京コミュニティスクール」(TCS)は、これまで10年以上初等教育において探究型学習に取り組んできた、小学生向けのオルタナティブスクールだ。

TCS

TCSが設立されたのは、2004年のこと。ちょうどOECDによる「国際的な生徒の学習到達度調査」で日本人生徒の学力低下が指摘され、「ゆとり教育」に対する批判が高まっていた時期だ。

TCSの設立者であり理事でもある久保一之氏は、「ゆとり教育には具体的な方法論がないことが問題だが、子どもたちの思考力や問題解決能力、個性を大切にする方向性は間違っていない」と考え、批判では未来を創造できないと、TCSを設立するに至った。

小学生の枠に捕われない学びの本質

TCSでの日々は、子どもと大人がガチンコで向かい合う。「息子は学校から帰ると、しばらくソファから立ち上がれないくらいにクタクタ。毎日エネルギーを使い果たして帰ってくるんです」と話すのは、現在3年生のA君の母親だ。いったいどんな授業が行われているのか。

TCSを訪れると、広々とした仕切りのないオープンなフロアで、ちょうどA君たち3、4年生がカタマリになって、「信じるカネ?」をテーマとした探究学習に取り組んでいた。

この授業では「価値の移転は信頼によって成り立つ」という核となる考えに至るまで、お金のしくみや歴史について知り、みんなでとことん考えていく。「紙幣」はただの紙なのに、どうやって信用をつけていったのか——金本位制のしくみやその後の米ドル金為替本位制のこと、さらには変動相場制や紙幣とクレジットカードの違いにまで話は及ぶ。

お金についての歴史やしくみについて説明している資料。
お金についての歴史やしくみについて説明している資料。

小学3、4年生にはハイレベル過ぎないか?と驚きを感じながらも、体系的で実質的な内容は大人が参加しても十分におもしろい。子どもたちは果たして理解しているのかと見渡せば、パッとひらめいたように反応する子もいれば、ぐるぐると頭を巡らし噛み締めたような表情の子もいる。

子どもたちがお金について考えたことをまとめていく。
子どもたちがお金について考えたことをまとめていく。

いますぐには理解できない子もいるが、6年間反復して探究を続けていくことで、さまざまな概念が理解できるようになるという。

基礎学習+探究型学習の効果

TCSでは、小学生に必要とされる読み書き・計算など、学習や日常生活の基礎を身につけるための基礎学習のほか、今回のような概念を探究する「テーマ学習」を軸としたカリキュラムを行っている。

カリキュラムは、TCSが実践を重ねながら開発したオリジナルだ。そもそも久保氏は、探究型学習をベースとした教育メソッドの研究開発を行う「探究型教育のプロ」。

日本各地の有名私立小学校などでグローバル教育カリキュラムの導入支援を行うほか、国際バカロレア(IB)にも精通しており、当初は初等教育プログラム「PYP」の導入を検討した時期もあった。

しかし、IBを採用するには教科や先生に関する要件などガイドラインに沿わねばならず、TCSの方針と異なる一面もあることから、IB校になるのではなく、試行錯誤と世界最先端の理論や実践例からの知見を融合し、独自のカリキュラムを開発するに至った。

探究のテーマで学ぶのは、自主自律、意思表現、社会寄与、共存共生、万象究理、時空因縁という6つの領域。

年間6つの探究領域を、6年間繰り返し体系的に学んでいく。
年間6つの探究領域を、6年間繰り返し体系的に学んでいく。

子どもたちの基礎学力は、漢字チャンピオン(テスト)と算数の確認テストでのみ測っているが、小学生という枠組みに捉われることなく本質的な学びを繰り返すことで、卒業時には中堅私立中学校に合格できるくらいの学力が身についている子も多い。

卒業後は、公立中に進学する子もいれば私立を選ぶ子もいるが、国立や他のオルタナティブスクールを選んだ子もいるそうだ。

クタクタになりながらも健やかな子どもたち

2015年10月現在、全校で在籍している子どもは28名と徹底した少人数制なので(※1学年定員は9名)、子どもたちは息を抜くことなく大人たちと真剣に向かい合わざるを得ない。そして、週に2回は1200メートル走にも全員参加するなど、これでは毎日心身クタクタになるはずだ。

それでも、休み時間には高学年も思い切り遊ぶし、歌もうたえば踊り出す子もいる。子どもらしい健やかさは健在だ。とくに、男子も平気で下ネタを口にするなどおバカエネルギーが保たれているのは、男の子が育てにくい現代において貴重な空間といえる。

2016年に英語で学ぶプレがオープン

そんなTCSでは、開校から12年目にして、2016年度から英語メインで学ぶ「プレ初等部」を開設する。対象は4才児(年中)と5才児(年長)で、定員は6名(※2016年度のみ3才児も受け入れる)。初等部と同じ中野の校舎内に教室を設ける。

プレ初等部の説明会のイベントに参加した子どもたち。
プレ初等部の説明会のイベントに参加した子どもたち。

現在、初等部でも週2〜3時間英語の授業を実施しており、子どもたちは多少英語を話したり理解することはできる。しかし、探究のプロセスでインタビューやリサーチなどを行う際、グローバル化した社会では英語が使えないと限られたリソースからしか情報を得ることができない。

そこで、プレ初等部では英語で探究カリキュラムに取り組める子どもを育み、初等部に進学した際3分の1程度英語ができる子が在籍することで、全体の英語力を引き上げたいとしている。

また、初等部でも来年度から英語カリキュラムをより実践的な内容に変更していくことで、みんなが英語でプレゼンできるレベルを目指していくそうだ。

東京コミュニティスクール

ICUも小中学生対象の探究型講座をスタート

「小学生、中学生にこそクリティカルシンキングを」と、日本のリベラルアーツの草分け「国際基督教大学」(ICU)も、探究型プログラムの実施へと動き始めた。

探究型プログラム「ICU キッズ・カレッジ」がスタートしたのは、2015年8月だ。当初は小学4年生〜6年生を対象に、夏休み終盤の3日間に渡り自然科学分野のプログラムを計5 講座開講。9月以降は、3ヵ月単位で外国語、数学などさまざまな分野をテーマに、毎月土曜日に2〜3回開講している。

探究型早期グローバル教育11

もともとICUでは、2010年から小学生向け「子ども科学教室」、12年からは夏休みに5日間の宿泊型「ジュニアキャンパス・キャンプ」を開催するなど、キッズ・カレッジ開催への布石は打たれていた。

仕掛人でもある同大学の岡村秀樹上級准教授は「変化が激しいこれからの時代にこそ、子どもたちにもリベラルアーツが必要となる」と、全学的に賛同を得るべく奔走し、開講にこぎつけた。

子どもたちに「可能性」の種をまく

対象としているのは、小学4年生から中学3年生までの子どもたちとその保護者で、定員は各回30名ほど。1講座2時間の授業か、あるいは1講座を1時間ずつ合計2時間2講座という時間割で構成されている。

講座の内容はそれぞれ異なっているが、いずれの回もICUで教鞭をとる教員が、学生たちに行っているリベラルアーツの考えに基づいたアカデミックな内容を子ども向けにアレンジ。講義や実験に合わせて、ディスカッションや発表を取り入れるという流れはそのままに、効果的に収まるよう工夫されている。

「子どもたちにリベラルアーツを教えるのはまったく新しい試みで、日本のどこを探してもない」と岡村上級准教授は胸を張る。それもそのはず、ICUにおける60年を超えるリベラルアーツの実践は簡単にはマネできない知の蓄積だ。

キッズ・カレッジで扱う内容はさまざまだが、たとえば生物学と環境研究を専門とする教員は「DNA」について教える。「みんな、『DNA』食べたことある?」という問いかけに子どもたちの目が輝く。

探究型早期グローバル教育12

白衣を身につけた子どもたちは、DNAを取り出しやすくするために、すりつぶした野菜に食塩水を混ぜて漉したり、用意されたチューブに移したり。最終的に白くてふわふわした状態の「DNA」が取り出されると、それを自分の目でじっくりと観察。すると、野菜によっては見えにくいDNAもある。

探究型早期グローバル教育13

教えているのは「考え方」

なぜそのような結果になったのか。子どもたちの意見を引き出しながら教員はていねいにコメントをつけ、さらなる検証を促していく。その過程で「こうかも?と 思ったら、試してみることが大事。たくさんの実験を重ねて観察したり、比較したりして、答えの可能性を検証したり、予想を立ててみるんだよ」とアドバイスする。

教えようとしているのは「考え方」だ。

学校の学習レベルとは関連しないため、異学年であっても子どもたちがともに学ぶのは問題ない。

たとえ講義の内容がいますぐ理解できなくても、今後高校や大学でより抽象的な概念を学んでいき、繰り返し思考して全体像が見えたとき、今回の授業が結びついてストンと理解できる、そんな「種まき」になる体験になればいいと考えている。

柔軟な考え方ができる子ども時代には、 誰かの言葉や小説、音楽などに心を動かされ、ぱっと目が開かれる体験をした人も多いと思うが、岡村上級准教授も「子どもたちは考古学、言語学などに反応するかもしれない。そんな種となるものが教員の話から出てきて、子どもたちの芽となってほしい」と願っている。


【ICU キッズ・カレッジ】

  • 問い合わせ:ICUサービス
  • Facebookページ
  • 対象:小学4年生〜中学3年生の子どもとその保護者
  • 開催:毎月土曜日に2回から3回を予定(2015年12月12日からは文化人類学、歴史を扱う冬講座が開講)
  • 参加費:各回5000円

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